歪な心
翌日の朝。
久しぶりに私はニコラ様と二人で朝食を取った。
テーブルの上にはパン、スープ、オムレツ、サラダ、キッシュといった豪華な料理が並べられていた。
本家に来てから毎日出される料理はどれも申し分なく美味しい。
朝食に出ているオムレツだって卵はふわふわ、中身はトロッとした半熟で舌触りがなめらかだ。
だけど、私はそれよりも気まずさを感じていた。
(どうして…?昨日仲直りしたはずなのに…。もしかして、何かあったのかしら?)
目の前に座るニコラ様は気難しそうな顔をして空気がピリついていた。
私と彼の問題は昨日話し合って解決したはずだ。
だというのに…どうして彼とまだ距離を感じてしまうのだろう…。
「セシリア。来週には領地に帰る。きみもそのつもりでいてくれ」
「承知致しました」
「では、俺は仕事に戻る。屋敷にいる間はきみも好きに過ごしてくれ」
そう言って食事を終えたニコラ様は食堂を出て行った。
どうして、こんなに不安になるのだろう…。
まだ心のどこかにわだかまりがあるような…。
そんな気持ちに陥る。
それはきっと彼が私に何か隠しているからなのかもしれない。
(こんなこと考えるのはやめよう…。昨日、ニコラ様と話せた。それで良いじゃない)
私達は本当の夫婦じゃない。
だったらお互い干渉するのは筋違いだ。
だけど、どうしてこんなに寂しく、むなしさを感じるのだろう…。
前まではそんなことなかったのに。
食事を終えた私は一人、廊下を歩いていた。
屋敷に来てから暇を持て余してばかりで、やることが見つからない。
(そうだわ。来週屋敷に帰るのならアネモネ達にお土産を買いに街まで行こうかしら)
そう考えていたその時。
遠くからクスクスっと笑い声がした。
振り向くと少し離れた窓際で掃除をしていた侍女達が私を見て馬鹿にしたように笑っていた。
「本家に来たのに何もしないでずっと一人でいるなんて可哀想ね。ニコラ様の妻だからといっているわりには全く相手にされないなんて」
「仕方ないわよ。没落貴族だもの。どうやってニコラ様に取り入ったのか分からないけれど、所詮は何も出来ないのよ」
「奥様が選ばれたお相手がニコラ様の奥様に合うのではなくて?だって、あんな地味な女なら私だってニコラ様の妻が務まるわ」
侍女達は口々に勝手なことを言っていた。
本家に来て、旦那様の妻として義母には認めて貰えず、その義母から侍女まで外されて妻として正式に認めてもらっていない。
そのせいで使用人達は私のことを馬鹿にしている。
これは貴族令嬢なら屈辱的だ。
怒って言い返すか、また泣いてその場を立ち去るかの二択かもしれない。
きっと彼女達はそれを期待している。
だからと言って彼女達の思い通りになってあげる義理なんて微塵もない。