偽りない気持ち
考えても思い浮かばない。
(ニコラ様と話をしよう!話さないと前に進まない)
私はそう思い、決心した。
午後の昼下がり。
私は屋敷の廊下を歩きながら頭を悩ませていた。
ニコラ様はいつも執務室にこもってばかりだ。
領地の屋敷でもそういうことは良くあったのだが、本家に戻ってから特に多忙になっている。
そんな中、話があると言って部屋に行っても良いのだろうか…。
さっき決心したばかりなのに…。
そんなことを考えていると、屋敷の一室からニコラ様が出て来るのが見えた。
(今がチャンスだわ!)
そう思い、私は急いでニコラ様に近づいた。
「ニコラ様…」
「セシリア…」
ニコラ様は私の顔を見て最初驚いた表情をしたあと軽く溜息を吐いた。
「何か用か?」
冷たい声音で彼は答える。
最初彼と初めて出会った時のことを思い出してしまう。
だけどここで怯んでしまう訳にはいかない。
「お話があるのです」
「話なら、数日前に済ませたはずだが」
「私にはあなたに伝えたいことがあるのです」
私は真剣な顔で彼を見つめる。
暫くしてから彼は困った顔をして私に言った。
「わかった。場所を変えよう」
ニコラ様に連れられて私は屋敷の庭にある噴水の前に来た。
噴水の周りには花が飾られており、近くにはベンチがあった。
ニコラ様は静かに私に視線を向けた。
「それで話とは…」
「この前は大変申し訳ございませんでした」
私は彼に頭を下げた。
「ニコラ様のことが心配でつい、差し出がましいことをしてしまいました。ニコラ様なりのお考えもあるのに…。私はこのままのニコラ様とお話出来なくなるのは嫌です」
私は顔を上げて自分の想いを込めて彼に伝えた。
「あなたと以前のように話がしたいです」
「セシリア…」
ニコラ様は切なそうな顔をして私を見た。
そしてすぐに困った表情をする。
「あのときのことは悪かった。今考えるとどうかしていた。きみを傷つけるなんて」
「いえ、そんな私は大丈夫です。気にしていませんので…」
「セシリア。俺たちは三年間の『契約結婚』だ」
ニコラ様は一度言葉を切り、続けた。
「俺と離婚したあとのことだが、もちろんお前と交わした約束は全て果たすつもりだ。女一人で生きていくのは大変だ。もし良かったら兄上を頼ると良い。俺よりも兄上の方が頼りになるし、良くしてくれるはずだ」
ニコラ様は私のことを考えて言ってくれている。
何故だろう…。
こんなにも胸が痛いのは…。
私は胸の痛みを隠して彼に笑って言った。
「心配して下さってありがとうございます。でも私はきっとグレン様を頼らないと思います。ニコラ様と離縁したあとは一人で行きたいのです」
私はニコラ様を見つめて話す。
「でも、もし私が頼るとしたら最初で最後はあなただけ。ニコラ様だけです」
この言葉は嘘、偽りない言葉。
私はそれを彼に伝える。
私の中でニコラ様の存在はいつの間にか大きくなっていた。
私の言葉を聞いたニコラ様は切なそうな顔をして私から視線を逸らしたあと、突然私を抱きしめた。