誤解とすれ違いと。
セシリアが部屋から出て行ったあと。
ニコラは一人罪悪感と後悔に苛まれていた。
どうして彼女を傷つけるようなことを言ってしまったのだろうか。
思い出すだけで胸が締め付けられる程に苦しくなってしまう。
「クソッ…」
ニコラは乱暴に拳で机を叩く。
手にじーんとした痛みと共に机の上に置いている書類が僅かにぐらついた。
彼女は泣いていた。
傷ついた顔をしながらもニコラ自信を強く心配していた。
彼女はただ自分のことを心配してくれただけなのに。
それを自分は傷つけたのだ。
自分はただ彼女を愛して彼女に優しくし、彼女にただ寄り添っていたいと思っていた。
何でもない毎日をただ幸せそうに過ごすセシリアのことを愛していた。
今もそうだ。
彼女の後を追い掛けたい。
その衝動に駆られてしまう。
だけどそれは出来ない。
セシリアはグレンの想い人。
彼女を幸せに出来る人間は自分ではなく、次期当主であり、彼女を昔から一途に想う兄だけ。
だから、自分の想いを押し殺せば良い。
期限付きの契約結婚だがセシリアが兄の元に行けばすぐにセシリアを解放し、自分は一生結婚しない道を取る。
そのことを父に進言すれば父は納得はするだろう。
父は兄を後継者にと考えているのだから。
(彼女は幸せになるべきだ。彼女の幸せを妨げる障害となるものは排除する。それが例え俺であったとしても……)
ニコラはそう思ったのだった。
****
数日後。
私はアルジャーノ本家の屋敷にある中庭に一人いた。
中庭には美しい花々が咲き誇り、少し離れた場所にはテーブルと椅子が置かれてある。
私は椅子に座り、花を愛でていた。
「綺麗…」
あまりの美しさに思わず声が出てしまう。
この屋敷にある花々は首都に咲く花を中心に地方で咲くといわれている珍しい夜行のスミレという花がある。
夜行スミレとは夕方から夜に掛けて淡い紫色の光を灯す珍しい花であり、夜になると光が映えてとても美しい光景になるのだ。
夜行スミレはアルジャーノ家の当主様、もしく はエセル様の趣味なのかもしれない。
(やっぱり、花は素敵ね。心が洗われるようだわ…)
最近色んなことがあった。
屋敷に来るまでは良好だった私とニコラ様の関係は今ではギスギスした状態だ。
彼と話をしようとしてもニコラ様は仕事で忙しく、なかなか会えない。
最初ニコラ様に付けて頂いていた侍女もエセル様の指示で私の元に侍女はパタリと来なくなってしまった。
以前エセル様にハッキリとニコラ様と離縁しませんと宣言したせいで、嫌がらせをされたのだと思ったのだが私にとっては嫌がらせではない。
実家にいた頃はこれよりも、もっと酷いことをされたので痛くもなんともない。
あらかた自分のことは自分で出来るから。
それよりもまずはニコラ様と仲直りすることが先決だ。
ずっと、このままの関係なんて嫌。
何とかして彼と以前のような関係に戻りたい。
その為にも、どうやってニコラ様と仲直りしたら良いのだろうか…。




