旦那様の歪な華族
「それがあなたの妻だと言うの?」
ニコラ様のお母様…アルジャーノ夫人は不愉快そうに私を値踏みするような視線を向けた。
「申し遅れました。アルジャーノ夫人。私の名はセシリア…」
「誰があなたの挨拶を聞きたいと言ったの?没落貴族は黙ってなさい!」
ギロッと冷たい目で睨まれてしまい、思わず私は押し黙ってしまう。
そんな私を庇うように旦那様は私の前に出た。
「私の妻を愚弄するのはやめて頂けますか?いくら母上でも容赦しませんよ」
「はぁ…。ニコラ。どうしてこのような平凡な女を妻にしたの?あなたの妻に相応しい令嬢ならほかにもいるでしょう?私が選んであげた令嬢だっていたのに」
「お言葉ですが私は彼女を気に入っています。私の妻は彼女以外ありえない。あなたといると気分が悪くなる。失礼する。行くぞ」
「あっ、あの…」
旦那様は突然、私の手を掴んで足早にその場を離れた。
私は彼に連れられるように彼に着いて行く。
長い廊下を歩いた先でニコラ様は突然、足をとめた。
「すまなかった…」
ニコラ様は苦しげに額に手を押えながら言った。
「あの人がお前を傷つけることは知っていたはずなのに、それを未然に防ぐことが出来なかった…。今さっき俺がお前を護るとそう約束したにも関わらず」
ニコラ様は俯き、ため息を吐いた。
「子供の頃からいつもそうだ。俺の言葉を全て否定し、自分の思い通りにことを進めようとする。ちっとも変わらない」
私はニコラ様の手をそっと握った。
「私は大丈夫。何を言われても構いません。実家では色々言われていたので、このくらいではへこたれません」
「そうか…」
私の言葉にニコラ様はふっと優しい表情をした。
私も彼に微笑み返す。
ニコラ様はアルジャーノ夫人と何か確執があるのかもしれない。
確かにアルジャーノ夫人から見たら私は没落貴族の娘で由緒正しい貴族のアルジャーノ家には相応しくないかもしれない。
でも、ここで諦めたりはしない。
出来ればここに滞在中のうちに彼女からニコラ様の妻として認めてもらいたい。
契約の妻だが夫人認めてもらえれば、もしかしたらニコラ様と夫人の関係性が多少なりとも良くなるかもしれない。
「お前も疲れただろう。部屋を用意した。今日はゆっくり休め」
「ありがとうございます」
「あと…」
ニコラ様は少しだけ気恥しそうに私から視線を逸らして言った。
「明日…仕事の後、王都に行かないか?行ったことないのだろう?」
彼の言葉に私は嬉しさのあまり驚いた。
「良いのですか!」
「別に構わない。仕事で行く聖堂は王都の近くだからな。なんてことはない」
「ありがとうございます。とても嬉しいです!」