旦那様のお兄様
「グレン·アルジャーノと申します」
グレン·アルジャーノ様は柔和な笑みを浮かべて私に手を差し伸べた。
私は彼の手を握り、挨拶を交わす。
「初めまして。セシリア·アルジャーノです」
「きみがニコラの奥さんか。随分と可愛らしい方だな」
私はグレン様に微笑んだ。
あの後。
突然、訪れた旦那様のお兄様の元に私とニコラ様は慌てて彼と面会をした。
(それにしても、こんな素敵な人と握手とはいえ手を触れてしまうなんて…緊張してしまうわ…)
私はグレン様をチラッと見る。
ニコラ様も整った綺麗な顔立ちをしているのだが、グレン様は物腰が柔らかく、人好きするような雰囲気に整った顔立ち。
見るからに物語に出てくるような皇子そのものだった。
「いつまで俺の妻の手を掴んでいる。離してくれないか?」
旦那様はむっとした不機嫌な顔をしてグレン様に言う。
彼の態度に気を悪くした様子もなく、グレン様は「あ、ああ!ごめんね」と言い、慌てて私の手を離した。
「ところでどうしたんだ?連絡もなく、突然訊ねに来るなんて」
「僕が王命で父上と大聖堂の建設をしていることはもちろん知ってるよね?完成までまだ程と遠いけど、外観の部分が出来上がったんだ。それで一度グレンの意見も聞きたくてね。どうだろう?王都まで来てくれないかな?もちろん、セシリアさんも一緒に」
「私もですか…?私が一緒では邪魔になりませんか?」
「ならないよ。それに色んな意見やアイデアがあった方が良いしね」
ニコラ様は考えるような素振りをして、そしてグレン様に訊ねた。
「一つ聞きたいのだが…。この件は父上は知っているのか?」
「もちろんだよ。むしろ急かしていたぐらいだからね。だから手紙で知らせる間もなく、僕が直接こっちに来たんだよ」
「そうか…」
(王都か……)
私は王都に行くのは初めてだった。
ビクトリアス家の屋敷は王都の近くにあるのだが私は一度も街に出掛けたことはなかった。
王都には色々な店や食べ物があると聞いたことがある。
興味がないと言えば嘘だ。
街の中を歩かなくとも馬車から景色を見るのもまた楽しそうだ。
「ねぇ、きみそのネックレスは…!」
グレン様は私のネックレスを見て突然驚いた表情をした。
私は彼の態度に驚きながらも丁寧に答えた。
「これは私の亡くなった母の形見なのです。昔からとても大切にしてて…」
「こんなことって…」
グレン様は突然私の腕を掴み、私に迫るように強く確認するように言った。
「幼い頃、きみは金髪の男の子と会ったことを覚えてないか!」
「あ、あの…」
グレン様から聞かれた私はあまり突然のことに驚いてしまう。
そんな中でニコラ様は私の手を掴んでいたグレン様の手を乱暴に退けた。
「手を離せ」
「あっ…」
旦那様の言葉で我に返ったグレン様は私に頭を下げて謝罪をする。
「セシリア様。申し訳ありません…。レディにこのような失礼をしてしまって…」
「いえ、私は大丈夫ですので、顔を上げて下さい」
私の言葉にグレン様な顔を上げる。
「ニコラ。悪かった。きみの妻に失礼をしてしまって…」
「いや、俺は…」
罰が悪そうな顔をして顔を逸らす旦那様に対してニコラ様は少しだけ苦笑した。
「僕から伝えたいことはこれだけだ。申し訳ないけど、少し疲れたから僕は部屋で休ませてもらうね」
そう言ってグレン様は広間から出て行った。
(さっきのは何だったんだろう…?)
私は彼に対してそんな疑問を抱えたのだった。