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新たな客人

収穫祭が終わってからの翌日。

私はいつものように庭園一部にある野菜畑で野菜を収穫していた。


「このトマト。いい色ね。食べ頃だわ!こっちのキュウリは形が少し曲がってるけど愛嬌のある形だし、美味しそう」


私は収穫の籠を片手に空を仰いだ。

空はまっさらな青空が広がっていた。

梅雨も開けて夏本番。

これから夏野菜や果物を育てても良いかもしれない。

夏バテ予防の野菜を育てるというのもありだ。


(夏野菜や果物が収穫出来たらみんなに食べてもらいたいわ!今から頑張ろう)


内心私はそう意気込む。


「ここにいたか」


突然後ろから声がして振り向くとそこにはニコラ様が立っていた。


「また収穫か。この量を一人でこなすのは大変だろう。手伝いに誰か呼ばなかったのか?」


「平気です。今日はみんな忙しいようでしたし、それに私育てて、収穫するの好きなので。だから楽しみながらやってます」

「そうか」


「もしかして私何か用があったのでしょうか?」


私は不思議そうな顔をして旦那様に訊ねる。

彼が私の元を訪れる時、大抵私に用があることが多い気がしたからだ。


「俺がここに来ては行けないのか?」

「いえ、そう訳では…」


旦那様は少しだけ子供のように不機嫌そうな顔をした。

それに対して慌てて私は言った。


「あ…、いや、そうじゃない…」


旦那様は困ったように、照れたように前髪を手で掛けあげた。

何かと葛藤するような仕草をしたあと、私の顔を見つめて照れたように言った。


「お、お前に改めて礼を言いに来たんだ!」

「私にですか…?」


「今回の収穫祭の件では間違いなくセシリア…お前に助けられた。俺はここの領主になって、町を豊かにすれば領民達は喜ぶだろうと信じて領地経営を行っていた。そこに領民達との関わりはなくとも金さえあれば人は幸せになれる。だから俺は領民達と関わらず、仕事ばかりしていた。そんな俺の間違った価値観を押し付けていた彼らに押し付けてしまっていたんだ」


旦那様は一度言葉を切り、続けた。


「だけどお前は金だけではなく、人との関わりを大切だと俺に教えてくれた。今回の件で領民達からの誤解が解け、彼らとのわだかまりが無くなって、仕事がやりやすくなった。全てお前のお陰だ。礼を言う。ありがとう」


私に誠意を込めて頭を下げる旦那様。

私は彼の姿を見て静かに口を開いた。


「顔を上げて下さい」


私を見る旦那様に私は柔らかい表情で言った。


「私は大したことはしていません。これは全て旦那様のおちからです。それに私は感謝しているのです。契約結婚とはいえあなたが私をあの屋敷から連れ出してくれたことに。いまこうしてここで自由に出来るのはあなたのお陰なのです。私こそニコラ様…。あなた感謝しているのですよ」


「セシリア…」


旦那様に言った言葉は私の本音だ。

彼がいなかったら、きっと私は死ぬまで実家で働かされていた。

だからこそ私は彼に感謝している。


「セシリア、お前に伝えたいことがある。俺はお前と…」

「旦那様!お客様がお見えになられました!」


旦那様の言葉を遮るように侍女のアネモネが私達の元にやって来た。


「そんなものは後にしろ。今取り込み中だ」

「そうはいきません。お客様は旦那様のお兄様なのです…」

「何…?」


****


ニコラ·アルジャーノの屋敷の前に一人の青年が立っていた。


「へぇ…ここがニコラの屋敷か。彼に会うのは数年ぶりか。楽しみだな」


青年…ニコラの兄であるグレン·アルジャーノはそう呟くと屋敷の玄関の戸を叩いたのだった。


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