芽生えた初めての想い。
収穫祭の帰り道。
ニコラとセシリアの二人は街の中を歩きながら屋敷まで帰っていた。
馬車を用意しようとしたがセシリアがせっかくだから歩いて帰りたいと言った為、ニコラは歩くことにした。
街から屋敷までの距離は20分程度。
近くもなければ、遠くない調度良い距離だ。
(今日は色々あったな…)
ニコラは収穫祭での出来事を思い出す。
セシリアに誘われて収穫祭に突然参加することになった。
収穫祭で出す料理を手伝ったり、崩れ落ちる建物からセシリアと共に子供を救い出し、今まで領民達から誤解されていたことが、セシリア達を切っ掛けに誤解が解けた。
正直領民達から誤解されたままでは領地運営はやりにくさがあった為、これで仕事も上手く進めるだろう。
ニコラは隣を歩くセシリアをチラッと盗み見する。
彼女は心做しかどこか嬉しそうにしていた。
(…もう、認めるしかないようだ…)
自分は彼女に惹かれている。
セシリアがニコラにお飾妻として嫁いでから、ニコラに取ってより良い方向に向かっている。
村の水害での作物の件。
今回の収穫祭での件。
間違いなくこれらは彼女の功績だ。
自分だけだったら解決できなかった。
セシリアは自分のことを謙虚に話し、周囲に感謝を忘れず、いつもニコラのことを立ててくれる。
お飾妻なのにだ。
最初はセシリアのことを利用しようとした。
時が来たら彼女を解放すると誓った。
だけど彼女の暖かさに触れ、愛を知らずに上辺だけで他人と接していた。
何処か虚しさを感じていた心がセシリアの優しさで溶かされ、癒される気分だった。
三年で彼女と別れたくない。
彼女が惜しくなってしまった。
自分から期限付きの妻だと言ってだ。
だけど彼女が欲しい。
彼女と本物の夫婦になれたら自分は心から笑えるかもしれない。
「旦那様。どうかされたのですか?」
不思議そうに訊ねるセシリアに思わずドキッとしながらも誤魔化すようにニコラは「何でもない」と素っ気なく返したのだった。