不器用な旦那様
「俺見たんだ。この前、領主様が隣の街にいる貴族の屋敷の当主と会っているところ。その時、当主に頭を下げて祭りの資金を借りようとしていたんだ。雨の中ずぶ濡れになりながら」
「何だと…」
「多分だけどさ、きっと領主様は祭りの資金繰りで回っていたんだと思うんだ…」
「じゃあ、領主様は俺たちの為に動いていたと言うのか…。祭りは諦めろと言っておきながら、自分は影で動いていたとは…」
「そうに決まってる。じゃないとリニアを庇った理由も説明できないだろう。なぁ、奥様」
「はい。その通りです」
青年の言葉に私は頷いた。
旦那様は「おい、セシリア」と何か言いたげな視線を向けたが、ここまで青年に言われては私も黙っているわけにはいなかった。
「旦那様は雨で作物の実りが悪くなっている時期に収穫祭の資金繰りに今まで回っていたのです。確かに旦那様は収穫祭は諦めるように皆さんに言ったのかもしれません。だけど本当は村の皆さんが楽しみにしている収穫祭を何としても行いたいと思っていたのです」
「何だよ…。それはやく言えよ。不器用すぎるだろう…」
年配の男性がため息をつき、頭をガリガリと搔いた。
そして旦那様に近づき、罰が悪そうな顔をして話しかけた。
「あー…その、悪かったよ。変に誤解してしまって。若造の坊ちゃんが嫌々領主していると思ってたんだ。でもアンタもちゃんと村のことを考えてくれていたんだな」
「私の方こそ誤解を与える真似をしてしまって申し訳ありません。私なりに村をより良くしていきたいと思っています。だからこれからご教授して頂けると嬉しいです」
旦那様は丁寧に年配の男性に言葉を伝えた。
年配の男性は旦那様のことを見てふっと小さく笑った。
「アンタ言葉足らなすぎなんだよ。こちらこそ、宜しく頼むよ。領主様」
年配の男性は旦那様の背中を軽く叩いた。
周囲にいた村人達は暖かな目で旦那様を見ていた。
(誤解が溶けて良かった…)
私は心から安堵した。
旦那様は口下手で自分のことをあまり話さない。
そのせいで誤解されがちだと言われていた。
だけど旦那様を分かってくれる人がいた。
旦那様の良さが皆に伝わり、村人達から受け入れられている姿を目にして私は自然と笑みが零れた。
「だから言ったでしょう。わかっていると」
村長さんは私の隣に来てボソッと言った。
彼は優しい表情で村人達を眺めていた。
「村長さんは最初から知っていたのですか…」
「侮ってもらっては困りますな。ワシは人を見る目は確かなのですから。本当はワシが彼の誤解を解いても良かったのですが、それでは村人達はワシが彼を庇っていると思うでしょう。だからそのままにするしかなかった」
「そうですね。旦那様はきっとそのようなことはお望みになられないと思います。だけど旦那様のことを見ていてくれた方がいて嬉しかったです。そのお陰で誤解は解けたのですから」
「奥様の力も大きいかと思いますよ。あなたは領主様の気持ちを汲んだのでしょう?ただ自分の気持ちを押し付けるわけでもなく」
「いえ、私は…」
「まぁ、何にせよ良かった。これでわだかまりもなく、祭りが出来そうですな」
「はい」
私は村長の言葉に頷き、笑顔で返事をしたのだった。