不器用な優しさと想いと。
「奥様達もこちらに来ていたんだね」
「はい。村長さんにご挨拶をと思いまして…」
「そうかい。そういえばセントシスの収穫祭は奥様は初めてだったね。収穫祭の時は隣国からの商人も来て商品を売ってるんだ。珍しいものがあるから覗いてみると良いよ」
「ありがとうございます。実はさっき…」
私は笑って女将に答えていた時、突然強い風が吹いた。
私の髪が揺れ、思わず目をつむりそうになる。
その時、すぐ側にある神棚の隣にある古い木材で出来た建物がが揺れて近くにいる子供の方へと倒れそうになっていた。
「!」
「危ない!」
気づいたら思わず身体が動いていた。
私は駆け出し、子供を抱きしめて落ちて来る建物から守るように庇おうとした。
ガラガラガラ。
建物が崩れる盛大な音がする。
だけど痛みや身体に異変を感じない。
(あれ…?痛くない…)
私は目を開けて上を見上げる。
すると、旦那様が私達を庇うように建物の柱を支えていた。
「だ…んなさま…」
ぽたっと彼の玉のような汗が地面に落ちる。
彼は柱を支えながら必死な顔で私に言った。
「だ…大丈夫か。」
彼の顔を見て私は気持ちが溢れそうになるのを感じた。
どうして、ただのお飾りの妻なのにこんなことをするのか。
私にはわからない。
ただ一つだけ言えるのは私を助けてくれたこと。
私は泣きそうな顔をぐっと堪えて彼に告げた。
「はい。平気です」
ガタッと建物が軋む音がし、柱を支えていた旦那様が苦痛に呻いた。
「ぐっ…」
「旦那様!」
「お前達何をやっている!はやく領主様達をお助けしろ!!」
近くにいた村の男性達は私達を助ける為に崩れた建物の破片を次々と退けてくれた。
彼らのお陰で私たち三人は助かったのだった。
「あの…領主様。助けてくれてありがとう」
7歳の女の子は旦那様にお礼を口にした。
旦那様は女の子を一瞥したあと、ふっと優しい表情を向けた。
「どこも怪我はないか?きみが無事で良かった」
「はい。ありがとうございます!」
「リニア!?」
「母さん!」
女の子の母親は慌てて女の子…リニアの方に駆け寄り、心配そうな顔をして駆け寄った。
「ああ…。無事で良かった…本当に良かったわ」
母親はリニアを抱きしめたあと、私達に向き直り頭を下げた。
「領主様、奥様。この度はうちの子を助けて頂きまして誠にありがとうございます。なんとお礼を言っていいのか…」
「いえ、私は何も…。お礼なら彼女に言って下さい。彼女が身を呈して庇ってくれていたので」
「ああ…。奥様、ありがとうございます。本当にありがとう」
「そんな、無事で良かったです」
何度も頭を下げるリニアの母親に私はそう言った。
そんな中で私達を遠巻きに見ていた村人達は口々に話す。
「おい、もしかして俺達は領主のことを誤解していたんじゃねーのか?」
「貴族は自分のことしか考えてないと思ってたが…まさか領民を助けるなんて…」
「しかも体張って助けていたぞ。普通しないだろう。俺達を見下す貴族が…」
そんな中、一人の青年が前に出て来た。




