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トラブルの回避

食堂の厨房のテーブルの上には処分する筈だったキャベツの芯、ハーブ、大根の葉、近くの山奥に生えていたキノコ、山菜、野菜の切れはしが置かれていた。


「あの…奥様。こちらをどうなさるつもりですか?」

「見ててください。すぐに分かりますから」


心配そうな表情で訊ねる女将達に私は笑った。

私はまな板の上にキャベツの芯を置いて、近くにあった包丁を手に取る。


(さて、やりますか!)


キャベツの芯を包丁で細く切っていき、野菜屑を切り刻み、説いた卵の中に入れてチーズ、キノコ、塩を入れて、オーブンで焼く。

野菜入のキノコのキッシュを完成させたあと、私は有り合わせのもので手際良く野菜ケーキを作っていく。


女将達は信じられないといった顔で私を見た。

「野菜屑でキッシュやケーキを作るなんて」


「でも、味が悪かったら作っても祭には出せない。領民達に反感を買う可能性だってある。味の保証はされているのか?」


私は出来上がったキッシュを一切れ切り分け、皿に乗せたて旦那様に渡した。


「お口に合うか分かりませんが味を見て頂けませんか?旦那様のお口に合わなかったら、こちら旦那様の言葉通り収穫祭にお出しせずに、別の方法を考えたいと思います」

「……………」


旦那様は私の言葉に少しだけ罰が悪そうな顔をした。

彼が嫌味で言ったのではないと私は理解している。

せっかくの領民達が楽しみにしていた収穫祭で料理が美味しくなければ意味が無い。

食とは大切なものだ。

美味しいものを食すれば、それだけで幸福に感じ、一日が過ごせる。


旦那様は無言でキッシュを受け取るとフォークで一口に切り分けて口にした。


「何だこれは…。キノコの肉厚と野菜の甘みとチーズのクリーミーさが良く出ている」

「お口にあって良かったです」


「こ、これなら祭に出しても問題ない」

「ありがとうございます!」


「セシリア…先程は厳しい言い方をしてすまなかった……」


旦那様は私から視線を逸らした。

先程の彼の口調は厳しかった。

しかしそれは領主として当然のことだ。

それに今は私を気遣ってくれている。


「大丈夫です。分かっていますから…」


私は旦那様に優しく微笑んだ。


「あの奥様…。ご迷惑でなければ私も一切れ頂いても宜しいでしょうか?」

「何言ってるんだい!ご迷惑だろう!」

「だって、美味しそうですよ」


ウェイトレスを窘める女将を制した。

「大丈夫ですよ。まだまだ材料もありますし、お二人も是非味見して下さい」


「ありがとうございます!」

「全く。この子は…。申し訳ありません。奥様」

「いえ、私も食べて頂けて嬉しいので」


私は2切れ切り分けたキッシュを女将とウェイトレスの二人に差し出した。


「美味しい…!」

「奥様!素晴らしい味です!店の商品として並べたいくらいですよ」


「喜んで頂けたみたいで良かったです。大変申し訳ございませんが少しだけ待ってて頂いても宜しいでしょうか?料理に入れたい食材を思いつきまして…。すぐに戻って参りますので」


「俺が行く。お前はここで料理を作って欲しい。どのような食材が必要なんだ」


「領主様私が行って参りますので…。ここでお待ち下さい…」

「いや、手が空いている俺の方が適任だ。お前達は妻の手伝いをして欲しい」

「かしこまりました」


旦那様は私に向き直り、訊ねる。

「先程の続きだが…」

「ではカモミールネのハーブをお願いしても宜しいでしょうか?」

「わかった」


短く答えたあと、旦那様は食堂を出て行った。

私は料理の準備を再開させたのだった。


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