トラブルはチャンスの兆し
数時間後。
私と旦那様の二人は町に赴いた。
町には収穫祭で市場などが立ち並び、親子連れや町人達で大いに賑わっていた。
「わぁ…凄いですね!」
思わず感嘆の声を上げる私に旦那様は私を軽く睨んだ。
「お前、本当は分かっていたのではないか?」
「あははは。何のことでしょう~」
私は笑って誤魔化しながら旦那様から視線を逸らす。
多少強引かなとは思ったが、こうするしかなかった。
「全く…」
彼は不機嫌ではあるものの帰る素振りは無い。
内心安堵する。
あとはどうやって旦那様と領民達の誤解を解くのかだけど…。
「おい、あれって領主様だよな。どうして収穫祭に来てるんだよ」
「あれだけ反対していたくせに。まさか苦言を呈しに来たんじゃないだろうな」
「屋敷で仕事でもしてろよ。俺達のことに干渉してんじゃねーよ」
ヒソヒソという噂話が流れ来る。
「そんなこと…」
思わず言い返しそうになる私に旦那様は手で制した。
「構うな」
「で、でも……」
「良いから行くぞ」
旦那様は私の前を無言で歩く。
彼は何も感じな冷たい表情をしていた。
私は彼にこんな顔をさせたかった訳ではないのに……。
「どうするのよ!こんなことになって!」
「これじゃあ、収穫祭本番に間に合わないわ…」
突然、市場の近くにある店から女性達が慌てる声が聞こえた。
その声を聞いた旦那様は突然声が聞こえる方へと走り出し、私は彼の背中を追った。
市場の近くにあるのは小さなこじんまりとした食堂だった。
普段は食堂の近くに市場は無いが今日は収穫祭ということもあって市場に店を出していた。
店に入ると食堂の50代くらいの女将と20歳くらいのウェートレスがいた。
二人は困った顔をしながらテーブルの上にある食材を見ていた。
「何があった?」
「領主様!?」
女将達は驚いた表情で私達の方に目を向ける。
まさか領主である旦那様が収穫祭に顔を出すとは思わかなったのだろう。
「何か私たちでお力になれることがありましたら教えてください。是非あなた達の力になりたいのです」
「奥様…」
「実は…収穫祭で出すはずだった料理の品数が思ったより少なく、このままでは出す料理があと2、3品少ないのです」
「でも、たしか『セグシアー』である程度の作物ならば育ち、収穫されたと聞きましたが…」
「ええ。その通りですが収穫された野菜は芋野菜が多く、玉ねぎ、豆野菜、果実などは収穫に間に合わなかったのです。だから毎年子供達に提供するジュースはおろか収穫祭に毎年恒例の玉ねぎ料理が提供できないのです」
「そうよ!それに今さら料理が二品しか出せないと言ったら町の皆からガッカリされるわ。皆祭りを心から楽しみにしているもの」
俯き、悲しそうにウェイトレスが言う。
旦那様は暫く考えるような仕草をする。
「料理か…。今から隣の領地から食材を調達しに行ったとしても祭りまで間に合わない。何か方法があれば良いのだが…」
隣の領地までの距離は半日以上掛かってしまう。
それに町の収穫祭は町で取れた作物だ。
村の人達が他所の領地で取れた食材を使った料理を受け入れらるかどうかも怪しい…。
(待って…もしかしたら…)
「女将さん。野菜の切れ端や野菜屑などはありますか?」
「え?…ええ。ありますけど…」
「でしたら、私に考えがあります」