誤解と勘違い。
「あの領主は以前俺達に収穫祭を諦めるように言ったんだよ」
「収穫祭をですか!」
野菜屋の店主の話を聞いて私は驚いた。
そんな私に店主は言葉を続けた。
「少し前に大雨が降っただろう?その時に苗木、野菜などが殆ど雨でやられてしまって収穫祭を行うのが難しいとされた。だけど俺達にとっては大切な祭りの一つだ。だから領主様に頼んだところ奴は「今年諦めたところで支障はならない。来年行えば済む話だろう」と冷たく言ったんだ」
「そうだ。あの男は俺達がどれだけこの祭りを大事にしていたかなんて分かりはしない。所詮余所者なんだよ。だからそんなことが言えるんだ」
「そんな…。皆さん、誤解です。旦那様がそのように思っているわけはありません。あの時、苗木を回復させる為に旦那様も手伝って下さいました。だから…」
「だとしてもだ。奴は俺達と相容れない考えの持ち主なんだよ」
「そんな……」
野菜屋の店主さん達や周囲にいた村人達の言葉に私は悲しみの表情をした。
きっと旦那様は誤解されている。
旦那様が村人達が大事にしていた収穫祭を中止にさせるなんて理由がある筈だ。
彼は口は悪いがいつも困っている私を助けてくれて、村の畑の手伝いだって自ら率先して手伝ってくれた。
そんな人が自分の利益の為だけに動くはずがない。
「悪かったな。奥様。悪く言ってしまって…。俺達は領主様は正直あまり信用してない。だけどアンタは信用してるんだ。実際この村に対して動いてないように見えてしまうから」
野菜屋の店主さんは罰が悪そうな顔で私に言った。
旦那様は自分の仕事を多くを言葉で語らない。
誰も見えないところで仕事を頑張っていたとしても誰にも伝わらない。
だからこそ誤解を産んでしまったのかもしれない。
「でも、旦那様は……」
私は言いかけて口をつぐんでしまった。
ここで私が何を言っても街の人達に私の言葉は届かないかもしれない。
それは私が収穫祭を中止して欲しいと言った旦那様の気持ちを理解していないからだ。
まずは確かめる必要がある。
「申し訳ありません…。用事を思い出してしまいましたので、これで失礼致します」
「ああ。引き止めて悪かったな」
「いえ、ではまた……」
そう言って私は急いで屋敷に戻って行ったのだった。
屋敷に戻ると玄関先で執事と会った。
彼は私の顔を見ると穏やかな顔で私を出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ。奥様。お買い物ご苦労さまです」
私は執事に近寄り、真剣な顔をして執事に訊ねる。
「あの…あなたに旦那様のことを聞きたいの」
執事は私のことをじっと見る。
彼は真剣に見る私のことを察して私に言った。
「分かりました。外ではなんですし、お部屋の中でお話を致しましょう。さぁ、こちらに……」