初めての気持ち
「あ、ありがとうございます…」
「ああ…」
私は気恥しさを感じて慌てて彼から離れた。
顔が熱い…
顔が赤くなっているかもしれない。
恥ずかしさでニコラ様の顔が見れない。
今まで彼にこんな気持ちになったことは無かったはずなのに。
いきなりどうして……。
そんな私にニコラ様は私から視線を逸らしながら言った。
「では、俺は行くところがあるからこれで失礼する」
「は、はい!」
慌てて私は答える。
彼にそう返すのが精一杯だった。
ニコラ様がその場からいなくなったあと。
私は彼からもらった髪飾りを目を細めて見つめた。
***
午後の昼下がり。
私はバスケットを手にして玄関ホールにいるアネモネに告げた。
「では、行って来るわね」
「いつも申し訳ありません…。奥様にてつだってもいまして。本当は私たちの仕事なのに」
申し訳なさそうにするアネモネの手を握り、私は穏やかな表情で言った。
「そんな顔しないで。これは私がやりたいと言って、やらせてもらっていることよ。前に言ったじゃない。屋敷中にいるより家事や畑を耕している方が楽しいって」
「奥様…」
「私こそ、いつも我儘を聞いてくれてありがとう」
「そんな滅相もありません。奥様に手伝って頂けて私達使用人も嬉しい限りです」
「私も皆に喜んでもらえて嬉しいわ。だから気にしなくて良いの。この話は終わりね」
「はい」
私の言葉にアネモネはふっと優しい表情を浮かべた。
私も彼女に微笑みを返す。
「ところで、奥様。その髪飾り…もしかして旦那様からの贈り物ですか?」
ニヤリとした表情で言うアネモネに私はドキリとした。
「え、ええ…そうだけど…」
気恥しそうに答える私にアネモネは嬉しそうに私の髪飾りを見て言った。
「やっぱり!そのマーガレットの蕾の色、奥様の瞳の色と同じでしたので、もしかしてそうではないかなと思ったんです!でもあの旦那様が奥様に贈り物をされるなんて。奥様は旦那様に愛されていますね」
「そんなこと……」
私達は契約結婚だもの。
そんなことあるはずがない。
「いいえ、奥様。旦那様は絶対に奥様のこと愛されております」
アネモネは私にずいっと顔を近づけて、はっきりとした口調で言った。