彼の不器用な優しさ
「ニコラ様!?」
私は驚きの声を発した。
「どうしてここに…?」
「先に腕を見せろ。手当する」
ニコラ様はそう言うと私の腕を見る。
服が破け、腕から血が流れていた。
見た目程深い傷では無い。
「傷は深くないがこのままだと傷が化膿するな。じっとしてろ。手当をする」
「有難うございます…」
彼は小さな鞄から消毒液、包帯を取り出して私の手馴れた手つきで腕を手当し始めた。
「帰りが遅いから心配して来て見ればこんなこあとになっていたとは…。本当にお前は目が離せないな…」
呆れた様子でぼやくニコラ様に私はクスッと笑ってしまった。
「何が可笑しい?」
不機嫌そうな顔で言うニコラ様に私は心からお礼を言った。
「心配して下さって嬉しいのです」
「別にお前を心配したわけではない。使用人達がお前の帰りが遅いと心配していたか仕方なくだ」
気恥しそうに顔を逸らして言う。
屋敷の使用人達が心配していたことは本当だろう。
だが彼は私をこうして探しに来てくれた。
それだけで彼が私を心配していたことを物語っていた。
「これで大丈夫だろう」
「有難うございます」
「行くぞ」
その場から歩き出そうとするニコラ様に私は慌てて言った。
「待って下さい!すぐに『セグシアー』を運ばないと!」
「何だ。それは?何故その大量のハーブを運ぶ必要がある?」
怪訝な表情をするニコラ様に私は真剣な顔で彼に言った。
「これは畑の作物を息づかせる為に必要なもなのです。早くこちらを肥料として使わなければ村の作物が全てダメになってしまいます」
「村の畑を俺も見たがあれはいくらやっても無だだ。水日出しになっていて手の施しようがない。今回は諦めるしかないだろう」
「無駄ではありません」
私は胸に手を当てて彼に宣言するように言った。
「必ず私が作物を生き返らせてみせます」
ニコラ様を見つめる私に彼は静かに言葉を発する。
「怪我を負った腕でか?」
「私よりも村の人達が大切です。このままでは収穫出来る作物が制限され、食べる物だってままならない可能性があります。私はそれを何とかしたいのです」
私とニコラ様は静かに互いの目を見る。
暫しの静寂が流れる。
ここで譲るわけにはいかない。
ニコラ様は短くため息をつき、3つあったうちの籠のうち一つを取った。
「俺も手伝う」
「えっ…?」
まさか彼からそんなことを言うとは思わず私は驚いた表情をした。
「良いのですか?」
「止めろと言っても聞かないだろ。お前は」
(やっぱり優しい…)
私は嬉しさを感じてニコラ様に微笑んでお礼を言った。
「有難うございます」
「別にたいしたことじゃない。あとお前は一つも籠を持つな。怪我した腕で籠の中身をひっくり返されたりしたら溜まったもんじゃないからな」
本当に素直じゃない人。
そして優しい人。
私は彼に「分かりました」短く頷いた。