領主様の妻
私はその場にしゃがみこみ、視線を男の子に合わせて優しく声を掛けた。
「どうしたの?」
「町に遊びに来たけど、帰り道が分からなくなって……」
ぐずっと泣く男の子を慰めるように私は男の子の頭を優しく撫でて言った。
「じゃあ、私があなたを家まで送って行くわ。だから泣かないで…」
「うん…」
幼い子供を頬ってはおけず、私は男の子が思い出せる情報を手がかりに道行く人に道を訊ねたりしながら男の子の家を探した。
小さな町ということもあってか、町の人達は親切に道を教えてくれた。
暫くして。
丘の近くにある小さな農家の家を見つけた。
「あった!僕の家だよ!!」
男の子は自分の家を見つけると家まで元気に走り出してしまった。
(良かった…。無事に送り届けることが出来て。これで一安心ね)
安心した私はそのまま踵を返し、帰ろうとした時、男の子の母親と思わしき女性から声を掛けられた。
「すみません…。うちの子がご迷惑をおかけ致しまして。お礼にお茶をご馳走したいので是非寄って行って下さい」
「いえ、そんな私は…」
遠慮する私に女性は小さく苦笑するように言った。
「あなたがいなかったら、あの子まだ迷子になっていたかもし、もしかしたら誘拐されていたかも。もし時間があるようだったらお礼をさせてもらえないかしら?」
「ご迷惑でなければ少しだけお邪魔します」
私は彼女の好意に素直に甘えることにした。
家の中に案内された私は男の子の母親にお礼だと言われて麦の味がするお茶と手作りのクッキーを頂いた。
麦のスッキリとしたお茶は後味が良く、幾らでも飲める気がするし、クッキーは調度良い甘さでサクサクとした食感が楽しめた。
私は素直な感想を口する。
「美味しいです!このお茶どうやって作られたのですか!」
私の言葉に男の子の母親は驚いた表情をする。
「あなた麦のお茶を知らないの?」
「はい。最近こちらの方に嫁いで来たものですから…。まだ慣れていなくって……」
「そうなのね。このお茶は麦から作ったお茶なの。麦を炒めてお湯を注ぐだけで出来てしまうのよ」
「なるほど…」
それだけで、こんな美味しいお茶が出来るなんて…。
今度私も作ってみよう。
「ところで、この町に嫁いで来たと言っていたけれど誰に嫁いできたの?」
私は彼女に名乗っていなかったことを思い出し、居住まいを正して挨拶をした。
「名乗るのが遅れてしまい、申し訳ございません。私の名前はセシリア·アルジャーノ。このセントシスの領主であるニコラ·アルジャーノの妻となります」
「えっ!?」
私の言葉に男の子の母親は驚きの声を発した。




