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差し入れ

「気に入ってくれるかしら……?」


私はニコラ様の部屋の前に立ち、不安気に自分の手に持っているトレーを見た。

トレーには先程厨房で手作りのキャロットケーキと紅茶が乗っていた。


最近のニコラ様は多忙で執務室から出て来ない。

彼から干渉はするなとは言われているけれど、

毎日朝から夜中まで仕事に追われている彼の姿を目にしていると心配になってしまう。


今の私はニコラ様のお陰でまともな生活を送ることが出来ているのだから、せめてささやかだけど少しでも彼の心が休めるように何かしてあげたかった。


「よしっ!」


私は意を決してドアを叩いた。

コンコン。

暫くしてすぐに返事が聞こえた。


「入れ」

「失礼します」


部屋の中に入るとニコラ様は私に視線を向けずに机の上の書類を書き続けていた。

机には山ずみな書類が幾つもあり、彼が多忙を極めていることが嫌でもわかった。

差し入れを置いたら邪魔にならないように早々と出て行った方がいいかもしれない。


「何か用か?」

「差し入れを持ってまいりました」


私は彼の机の上にキャロットケーキと紅茶を置いた。


「贅沢は禁止していたはずだが」


ジロっとニコラ様から睨まれて私は慌てて手を振って否定した。


「いえ、こちらは私が育てた人参と不要になった食材の葉や茎を使って作らせて頂きました」

「これを?」


「ニコラ様が甘いものがお好きだと料理長達にお聞き致しましたので、甘いものには疲れを癒す効果があります。少しでもニコラ様の疲れが取れたらと思いまして……」


「そうか……」

「では、私はこれで失礼します」


私は彼にそう告げて部屋を後にしようとした。

その時…───。


「待て!」


彼は慌てて席から立ち上がり、私を呼び止めた。


「他に何か?」

私は不思議そうな顔でニコラ様を見る。

ニコラ様は行き場のない手を伸ばし、私と目が合ったあと、僅かに逸らして言い淀む。


「その……」

「?」


彼は気恥しそうに不器用に一言私に告げた。

「きみも付き合え」

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