ぼんやりした欠落
俺は何かが足りない。
初めて招かれた王宮は、頭上のバルコニーから楽隊がラッパを鳴らして出迎えてくれる。
左には黒いマントをまとった男性貴族、右には白いドレスを着た子女が立ち並び、拍手を響かせる。
中央には長いレッドカーペット。
見上げれば吹き抜け、シャンデリア、天井画。
豪華絢爛な空間が俺を歓迎してくれる――しかし、いいのか。
重大な欠落があるかもしれない、こんな俺なのに。
司会役の男性が奥の演壇から高らかに告げる。
「皆様、ご覧ください! 本年度の優秀新人、ケンレーのウキョウが入場いたしました。彼は昨年末にデビューした十五歳、ナラデ村の出身。成績の集計を区切る春分までのわずか三ヶ月で、怒涛の十五連勝を飾り、いまだ無敗であります。受賞者は前へ!」
王妃陛下がカーペットの向こうでお待ちになっている。
俺より一つ年上の十六歳。
太陽を背負われたようにお美しい、と評判でいらっしゃる。
しかし陛下に意識が向かず、心ここにあらずのままカーペットを進む俺。
「試合」のときのように馬上槍を持ち、鋼鉄の鎧兜を装備している。
それらがカチャカチャ鳴る音がやたら耳に残る。
陛下のそばまで来て足下にひざまずく。
シン……と静粛になる大広間。
「ケンレーのウキョウ。汝は三ヶ月で無傷の十五勝。将来有望と見えます。しかれどもグレティーン王国の臣民であれば粉骨砕身、つづけて腕を磨くべきです。精進してください」
「………………………………………………」
「どうしました?」
ハッ。
高貴なお声をいただいたのに、ボーッとしてしまった。
「は、はい。王国に恥じぬ戦士として、変わらず精進いたします」
「信義の認可を与えます」
陛下は長い宝剣をお持ちだった。
膨大な魔力が秘められた刃が黄金色に煌めいている。
その剣の側面で肩を撫でてくださる。
俺の身体が魔力のシャワーを浴びてしばらく光に包まれた。
儀式のクライマックスだ。
命を主君に捧げることが示された。
楽隊がファンファーレを鳴らし、バルコニーから紙吹雪が吹きあがり、人々は拍手喝采。
光が俺の身体に吸い込まれるようにして消える。
お堅い感じであらせられた陛下がみずみずしくニコッとなさる。
「おめでとう。今後も頑張ってくださいねっ!」
俺はいっそう頭を下げ、また考え込む。
今日まで順風満帆だ。
俺がもらったのはひよっこのナンバー2の賞だが、与えられた状況下でやれることを完全にやった結果なので、全く不服はない。
厳しい勝負の世界でこれからも努力を続ける所存だ。
じゃあ、なぜ悩む?
他の人が当然持っている何かが、俺には欠けている気がする。
どこかで大きな見落としをしているような感覚が、いつからか全然わからないが続いている。
重要な臓器を生まれつき持っていないのに、それをよく理解せずに生きているみたい、とも表現できる。
漠然と、これを放置すると良くないことがありそうに思える。
言うなれば「ぼんやりした欠落」。
一体これは何なんだ?
広間が静かになってきて司会役の男が言った。
「えー、続きましては『最優秀新人』の表彰を……行う予定でしたが、自己都合により欠席と連絡がございました。そこで受賞者の紹介だけをいたします。受賞者の名はメレアガンのアサ、十五歳の女性、トロワ村の出身。昨年の夏にデビューし、今年度の成績は三十五勝二敗と素晴らしいものであります。表彰式を改めて行う予定はございません」