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アサ・ド・トロワ

(私の破滅は……案外本当かもしれない……)



 露店の撤収作業をしながら、アサは考える。


 すっかり夕方になった噴水広場。

 店主は買い付けに出かけ、おかみさんは子守で忙しく、一人での仕事。


 以前、不審な占い師が予言した。

 メレアガンのアサは無惨に死んで、その影響で少年も破滅する、と。

 そんな未来の片鱗をアサは感じている。



(噴水広場で久しぶりに会ったウキョウさんは、地の底をさまよったみたいに、やつれてた。私と決闘して負けただけであんなになるなんて思わなかった。あんなに影響されやすいなんて知らなかった……)



 もっと大きな事件が起きたら、彼はどうなってしまう?

 その大事件を、たとえばもしも自分が起こしてしまったら?



(私が「血祭ノゴトク」死んだら、ウキョウさんはそれを知って壊れてしまうかもしれない……)



 彼の脆弱さを占い師は見抜いていたんだろうか。

 だとしたら、荒唐無稽に思えた予言も、真実味が増してくる。


 この日の夕焼けは奇怪な色だった。

 溶けた鉄のような朱色が町を染め、深い影を作っている。


 道行く人はうつむき加減に家路を急ぎ、逆光のせいで表情がわからない。

 西へ飛んでいく鳥の群れはもう帰ってこないんじゃないかと思える。


 ……自分は本当に、血みどろの末路を迎えるんだろうか。



(嫌だ)


(というか、駄目だ!)


(ウキョウさんの迷惑になるなら、それこそ死んだほうがマシだ!!)



 そのくらい彼を思っている。

 大事な人だから、彼のほうから来てくれるまで自分からは会いに行かなかった。

 屋敷に女が来ていると噂になり、優秀新人・ケンレーのウキョウはプレイボーイだなんてことになったら申し訳が立たない。

 噴水広場でその深謀遠慮を伝えたとき、少年は冗談と思ったようだが、アサは本気だった。

 彼のために少女は涙を飲むことができる。



(だから、もしも本当に二度と会わないことがウキョウさんの幸せにつながるなら、私は自分を殺してでも、そうすると思う……)



 と考えたあたりで、



「……ハッ!?」



 顔を上げて叫ぶ。



「いやいや! なんであんな占い師のこと信じそうになってるんだ私!! ずっと背中向けて喋ってた奴なんだから信じるなよ!!」



 不審者ごときの脅し文句を真に受けてしまった。

 恥ずかしい失敗だ。


 思い出したくないので、最初から予言なんてなかったことにしよう。

 自分で頭を殴って忘れてしまおう。

 一……ニの……ポカン!


 よし、これで何を言われたか忘れたぞ!

 問題消滅! やったね!!


 ――そうやって無理矢理結論付けると非常にスッキリした。


 無理矢理な自覚はある。

 忘れたと言いつつ、今でも死の予告は胸の奥に底流している。

 だが、いくら悩んでも前に進めない気がして、後ろ向きな思考をぶった切りたかった。


 アサには望みがある。



(私だって十五歳の女だ。色恋に憧れて、全身が切なくなって、昔の詩人みたいに『春の野草になって人に摘まれたい』って思うときもある。女は昔からそうやって生きてきたんだ。私だけ我慢するなんて出来ない!)



 他人を不幸にする心配だけでなく、自分のことも大切にしたかった。



(それに――)



 空を見上げる。

 日没が近づいて、空が深紅から、暗くくすんだ赤紫へ変わっていく。

 宵闇が太陽を追い出していくようだ。


 その景色を眺め、嫌な胸騒ぎを感じる。

 けれど少女は「秘めた計画」のことを思い、引き締まった顔になる。



(――それに、私はちゃんと思いついたんだ、自分もウキョウさんも幸せになる方法を。それをウキョウさんに伝えるチャンスは――あの日しかない!)




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