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AL2−17
会長。わざわざ、ここへいらしたのか。
お礼、言わないと。
すぐに立ち上がり、ドアまで歩いていった。
「御苦労様です、会長。今、開けますね。」
声を掛けて、開く。
映り込んだのは、黒いドレスではなく
鮮やかな藍色。
美しい刺繍が入った、着物。
会長だと思い込んでいた僕は、
完全に意表を突かれた。
結い上げられた、艷やかな黒髪。
それによって顕になった、白くて細い首。
アイシャドウが入った切れ長の、
真っ直ぐな視線と合って
ハッとした。
「間に合わず、
大変申し訳ありませんでした。貴也様。」
何で、ここに。
驚愕と、大きな鼓動の波が押し寄せる。
「お部屋へ失礼しても、
よろしいでしょうか?」
見入ってしまって、しばらく
声が出せなかった。
乾さん。
頭の中で、その人の名前を紡ぐ。




