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······あれ?
「杏奈は、どこに?」
乾さんは人差し指を立て、そっと
ふっくらな妖艶の唇に当てる。
「どうか、運んであげてくださいな。」
その指で指し示されたのは、
待合用のソファーがある場所だった。
ここからだと、背もたれから
ちょこんと出る頭しか見えない。
でも、確かに杏奈だ。
そっと近づくと、瞼を閉じていて
寝息が聞こえた。
眠っているのか。そうだよな······
かなり疲れただろう。なんだかんだで
血もいただいてしまったもんな。
······美しい寝顔。かわいい。
いや、ホント、長いまつげだな。
「朔耶。先に車で待っている。
アンナちゃんを頼むよ。」
疲れを感じさせないほど優雅に微笑んで、
親父は出ていった。
それを乾さんは、深々と頭を下げて見送る。
長い1日だったな······
とりあえず、解決だよな。
これで、杏奈が狙われる心配は
ないだろう。他の『聖職者』も。




