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みんながエレベーターに向かう中、俺は
杏奈と目を合わせて
“行ってくる”と言葉を投げた。
彼女は、微笑んで頷く。
ありがとうな。杏奈。
囮になって、動いてくれて。疲れたろ。
ゆっくり待っていてくれ。
優しくハグしたいところだが
それをグッと堪えて、みんなの後に続く。
エレベーターに乗り込むと、俺が率先して
最上階、10階のボタンを押した。
扉が閉まると、しんとした
重苦しい空気が支配する。
貴也は、無表情だ。
何を考えているのか分からない。
少なくとも、良い気分じゃないはずだ。
こいつは、本当に強い。
俺なら、薄情すぎると二人に
怒りをぶつけてしまいそうなのに。
······
“「僕はもう、人を殺めている。
その過ちを、繰り返したくない。
······二人には、僕みたいには
なってほしくないんだよ。」”
こんな事、言えるんだぜ?
お前は、どこまでも優しすぎる。




