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深々と頭を下げる乾さんを、
貴也の親父は見据える。
······こういう時の秒数って、
長く感じるよな。
「······兎川と会うのは、何年ぶりだろうな。」
そう呟いた彼の顔は、穏やかだった。
「了承する。」
「感謝いたします。」
よっしゃ!
喜びが、杏奈を抱き留める手に籠る。
俺を見上げる彼女も、
嬉しそうに微笑んだ。
乾さんはスマホを取り出し、
誰かと短く通話した。
すぐに、黒光りした高級車がやってくる。
「迎えの車です。ご乗車ください。」
「······輪冶は、治るのか?」
あっ。
もう風景として溶け込んでいて、
気にしてなかった。
「恐らく、問題ありません。
お気になさらず、どうぞ。」
「そうか。······緋葉。行くぞ。」
「······はい。」




