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20-26
あぁ。美味い。美味すぎる。
日を重ねる毎に美味くなるって、ヤバい。
いつか、色々と、
歯止めが効かなくなりそうで、怖い。
でも。
俺にしがみつく彼女の力が、
ゼロに等しくなった時に。
俺の理性が、吸引を止める。
「ぷはっ······はぁっ、はぁっ······」
危ねぇ。
毎回思う。
俺の中の、人間である部分が働くから
止められるものの。
吸血鬼の本能なら、吸い尽くしたいと
思ってしまうだろう。
そうならないのは。
最高峰の、“破邪の血”だからなのかもしれない。
ぐったりと、俺にもたれかかる杏奈を
抱き留める。
互いに、息切れする時間が
静かに過ぎていった。
何も、聞こえない。
誰も、言葉を発さない。
息が整いかけた時に、やっと誰かが
小さく、ため息を漏らした。




