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20-7
またしばらく、穏やかな時間が過ぎる。
時刻は、23時に差し掛かろうとしていた。
突然。
ふわっと香る、微かな甘い匂い。
その流れは、杏奈へ真っ直ぐ伸びていく。
感じ取った瞬間、俺はもう
地面を蹴っていた。
杏奈の腕を掴もうとしていた手を遮り、
そいつの手首を掴む。
「!!」
「指一本、触れさせん。」
ギロッ、と睨みつけた。
俺より、頭一つ背が高い。
そして、短く明るい茶髪。
顔は整っているが、チャラい。
チャラメンと呼ぼう。
チャラメンの大きい二つの目が、
近くで睨む俺を捉えている。
「ほぉ······面白ぇ。」
ニタァと笑ったそいつの犬歯は、尖っていた。
確定だ。
「オレを抑え込む、か。」
「おとなしく捕まれ。」
「······ハッ。ふてぶてしいな。」
 




