571/650
19−10
「なので私から朔耶様に、
お伝えしたい事があるのです。」
廊下で立ち止まると紋白さんは、
俺と向き合った。
真剣な眼差し。さっき見せた妖艶さは、
可憐な華やかさに変わっている。
「貴也様の想いを知った上で、
揚羽姉さまは任務を完遂する為に
理性を突き通すでしょう。
······
職業柄もありますが、本心を晒す事は
身内でさえも良しとしません。
姉は、そういう人ですわ。」
······
お伝えしたい事っていうのは、多分。
「叶わぬ恋だと突きつけられた時、
貴也様の落胆は大きいと思います。」
「大丈夫です。」
俺は、貴也の本音を知っている。
「叶わない恋だって、気づいています。
それでもいいっていうくらい、想ってます。
それこそ貴也も······理性を突き通すはず。
落ち込むよりも、乾さんの為に
生きようと考えると思います。」
あいつの想いは、本物だ。




