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10−21
二人は車内から出て行くと、教会へと向かう。
俺は呆然と、
会長の残り香を味わいながら見送った。
ものの、数分後。
電光石火とは、この事だろう。
教会の扉が開いて、乾さんの脇には
捕獲網が絡み合った酒殿。
河野の時に使った、アレだ。
うめき声が微かに聞こえている。
後ろのトランクが開けられ、放り込まれるのを
呆然と見守っていると、
何事もなかったように会長が
助手席のドアを開けて告げる。
「今日は、レングラント嬢の
誕生日なのだろう?私が経営するホテルで、
共に過ごすがよい。このまま送ろう。」
「えっ?」
後部座席のドアが、控えめに開く。
杏奈が躊躇いながらも、隣に乗り込んできた。
笑顔だ。うん。かわいいぃぃ。
良かった。無事だった。よく頑張ったね。
ほっぺた、ぐりぐりし······
······えっ、Hotel?
「私たちは墓へ行く。しばらく待っていろ。」




