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酒殿は、静かに教会から出ていく。
「······朔耶······」
こんなにも弱々しい、杏奈の声を
聞いたことはなかった。
俺は、彼女の方へ振り向く。
注がれる視線に、杏奈は只々
耐えている様子だ。
この状況。
誰もが、あの酒殿という男に
杏奈が、すがりついていたと思うだろう。
下手すれば、二股掛けてたとか。
そんな俺の責めを、彼女は
覚悟しているような気がした。
だが。
そんなこと、どうでもいい。
「······どうやって、ここに······」
「その話は後だ。」
じっと、彼女を見据える。
涙を流していたせいか、頬も目も赤い。
杏奈。
「······俺は、もっと······
頼られるようにならないとな······」
独り言に近い俺の言葉を、
彼女は黙って聞き入れている。
視線を通わせる時間、誰にも邪魔させない。
 




