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ガチの、『聖職者』じゃないか。
フローラルマダムは、白と黄色の
控えめな花束を作ってくれた。
それを受け取る俺の両手と、
残像の杏奈の両手が重なる。
「今、教会は閉まっているんですか?」
「代わりの神父さまが、
教会を引き継いでいるよ。
とても仲が良かった人みたいでね。
家の方は取り壊して、その土地は
売ってしまったみたいだよ。」
······そうだったのか。
度重なる貴重な情報、感謝します。
「ありがとうございます。」
「いえいえ。またおいで。
今度は杏奈ちゃんと一緒にね。」
「はい。」
マダムに笑顔を向ける彼女とともに、
俺も笑顔で店を出る。
彼女が持っているであろう花束は、
残念ながら俺の目には
何かを抱えている風にしか、映っていない。
当時は、どんな思いで
ここから立ち去ったのだろう。
吸血鬼に対する、憎しみを抱えたまま。




