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Lesson7 自分の身の程を知って鍛えるということ
その日の夜。
奏子は夜勤の時、晩メシを
用意してくれている。
今晩のメニューは、
ビーフカレーと豆腐サラダだ。
奏子のカレーは、息子の俺が言うとアレだが
世界一美味い。いや、ガチだ。
これ以上のカレーに、
出会ってないというだけなのかもしれないが。
出会わないという、根拠なき自信もある。
市販のルーを使わず、オリジナルスパイスから
作っているという本格派。
多分、料理の腕も、このご近所一かも。
晩メシが、カレーで良かったと思う。
ヘコんだ日には、この味が染みる。
俺と杏奈は黙々と食べ進め、ほぼ同時に
ごちそうさまをしようとしたタイミングで、
昌耶が声を掛けてきた。
「今日は大変ご苦労様だったね、二人とも。」
労いの言葉に、それぞれ首を横に振る。
「俺は何も、出来なかった······」
「とんでもないです。
会長と乾さんのお力添えの方が、
大変だったと思います。」
謙遜する杏奈と表情を暗くする俺を
交互に見て、親父は小さく笑う。
「上出来だと、会長は仰っていたよ。
二人ともよくやったと。
······その様子だと、
納得していない様子だね。」
納得なんて、程遠い。




