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ふわっと、杏奈の良い匂いに包まれる。
「······大丈夫だよ。
落ち着いたら、一緒に会いに行こう。」
優しい声と、温かさ。
それが、俺の涙腺を崩壊させた。
「うううっ、おれ、はっ······
なにもっ、出来なかったっ······」
「そんな事ない。朔耶の、
河野を思う気持ちがあったから······
無事に捕獲できたんだよ?」
「······あいつに、会う資格なんてっ······」
「資格なんていらない。友だちでしょ?」
友だち。ごっこ、って、あいつは言ってた。
緩かった日常は、もう戻らない。
残されたのは、厳しいリアルと哀れみ。
「河野がやった事は、血で狂わされたとはいえ
許されるものじゃない。でも、
朔耶が今まで過ごしてきた時間は?
それは、大事なものでしょ?
······会って、話してみようよ。
友だちとして、吸血鬼としても。」
強くなりてぇな、俺。
こうして、杏奈のように、
人を包み込めるように、強く優しく。
頼られるくらいに。




