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杏奈の片方の手の平から、ぽたぽたと
血が落ちている。
まさか。
短剣で、自分の手を······?
「せ、『聖職者』っ······?!」
「安心して。浴びただけじゃ死なないから。」
河野を見下ろす杏奈の表情は、
怒りとも憎しみとも違う、
何かが浮かんでいる。
強い、哀れみ。
「······正気に戻してあげる。
ゆっくり、時間を掛けて。
朔耶の思いが、自分たちの思いが
分かるまで······」
「ふ、ふざけるなぁぁっ!!」
杏奈に飛び掛かろうとするが、
バスンッという音が鳴ると同時に、
網のようなものが、河野の身体に絡みつく。
「河野 貴也。
只今から、吸血鬼協会の名の下において
身柄を拘束します。」
再度ドアが開いて訪れた人物は、
スーツ姿に戻った乾さんだった。
彼女の手に握られた、
異様に銃口がデカい拳銃から煙が出ている。
「こんなもので、
僕を拘束出来ると思っ······」
網は、意思を持っているかのように
河野の全身を締め上げていく。




