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黙って見てる、ことしか、
できない、なんて······くそっ······
くそぉっ······
「······す。」
触れる寸前で、杏奈の声が、漏れた。
「うん?」
「自分は、朔耶の女です。」
何か、はっきり、聞こえた。
「っ?!」
状況は、いきなりカオスだ。
朦朧とする中、見えたのは、
杏奈の手に握られた、銀色の短剣。
その刃に付いた、鮮やかな血。
「ぐぁぁぁぁっ!!」
河野が、悲鳴を上げて床に倒れ込む。
しかし、傷口らしきものは、見当たらない。
杏奈を掴んでいた手は離れ、
湯気のようなものが昇っている。
そして、河野の手から解放された俺の肺に、
一気に入り込む空気。
むせながら、状況を再確認した。
「な、なにを、したぁぁっ?!」
湯気が出る手を、もう片方の手で抑えながら
河野は、うめき声を発している。
杏奈は立ち上がると、哀れなものを見るように
視線を向けた。
「『聖職者』の血を浴びた気分は、どう?」




