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6:ほのかに想う。

 



 あの雷の日から、ジャニスとデュラハンの距離はどんどんと近付いていた。

 初めはジャニスの図々しくも人懐っこい性格と、デュラハンの面倒見が良く相手を受け止める許容の広さから成り立っていた関係だった。今は、二人ともにほのかな想いを抱き始めている。

 

 デュラハンはあれ以来、ジャニスが城の中に入ってくることを拒否しなくなり、小さなサロンには通してくれるようになった。

 小サロンは、こぢんまりとしていて、デュラハンの部屋同様に綺麗に清掃がされており、花も飾られていた。挿し方は非常に雑でセンスがないのが丸分かりなのだが、デュラハンが自分の為にしてくれたことなのかと思うと、ジャニスはのたうち回りたい衝動に駆られた。




 最近はお互いのことも良く話すようになった。


「ねぇ、なんで悪い王様に仕えていたの?」

『悪い……か。確かに、彼は酷い行いをしていた。戦争を仕掛け、卑劣な命令を幾度も下したな』

 

 世間的に奸悪といわれようとも、デュラハンが当時の国王を見捨てなかったのには理由がある。

 忠誠を誓ったからというのは勿論だが、当時の世界情勢や疫病で畑が駄目になり自国の食物が底をつきかけていた。など、背に腹を代えられぬ事態でもあった。


 ――――戦争に負ければ悪。


『……どうしょうもなかったが、失った大量の命を考えると、世間からの評価は正しいと思う。そして、従っていた私も悪だ。私に近づかぬ方がいい………………といったところで、お前は来るんだろうがな』

「わかってるじゃない。私は私が気になったことを知れるまで、諦めないわよ」

『ふっ…………だろうな』


 ふわりと笑った声が聞こえて、ジャニスの心は春の日差しに包まれたような心地になった。

 

「ねぇ、顔、見せて!」

『嫌だ』


 デュラハンはいつでも間髪入れずに拒否をする。これは出逢った時からそうだった。

 ジャニスはデュラハンがまだ普通の人間として生きていた頃に、何か嫌な思いをしたのかもしれないと感じてはいたが、それを二百年以上も引きずるだろうかという疑問も抱いている。


「ケチね。イケメンなんでしょ? 堂々と見せてくれてもいいのに」

『…………嫌だ』


 デュラハンが珍しく言い淀んだことには気付いたものの、これ以上踏み込むと本当に何も話してくれなくなりそうだと感じたジャニスは、テーブルに肘を突くと、大きな溜息を吐いた。


「ほんと、ケチ。もうこんな時間ね。帰るわ。またね?」

『……ああ。またな。気を付けて帰れよ』

「うん」


 デュラハンは、この関係が何なのか判断がつかなくなっていた。


 毎日のように来るジャニスとまたねと言い合い、微笑み合う。

 冑を着けているのでジャニスには見えていないが、デュラハンは微笑んでいた。

 ジャニスが笑顔を向けてくるからという理由もあるだろうが、それだけではない感情も確かに感じていた。


 ――――死人、なのに。勘違いするな。


 デュラハンは自身に言い聞かせる。

 希望を持つな、自分は死して尚、動き回る恐ろしい存在なのだから、と。


 ――――この想いには、気付くべきでは無かった。

 



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