5:雷轟
ダンダンダンと古城の扉が殴り叩かれている。
この国でこんなことをする相手は一人しかいないから無視でもいいはずだが、デュラハンは窓の外を見て溜息を吐いた。
『……』
「良かったぁ、いたのね! 入れてちょうだ――――きゃっ!」
『…………入れ』
外は土砂降り。しかも、ピカリと空が光り、轟音が降ってくる。
雷はまだ遠いが雨の降り方からして、馬車は走らせられないだろうとデュラハンは判断した。
執事たちは馬場で待機している。ジャニスが厩と城内に誘ったが断固拒否した。
『雷…………怖いのか?』
「ええ。だって恐ろしいじゃ――――っ! やだもぉ……」
『…………ついて来い』
デュラハンがジャニスの左手を握り、ゆっくりと歩き出す。
ジャニスは握られた手を見る。篭手で完全に覆い隠されていると思っていたけれど、内側は布の手袋のようになっていた。
――――温かいのね。
「え、入っていいの?」
『…………ここは窓がない』
「っ! ありがとう」
悪人の魂を回収し持ち去る、恐ろしい存在であるデュラハン。……のはずなのに、優しい。
室内はなんの飾りもなく、とても簡素で綺麗に掃除された部屋だった。
それは、デュラハンの元の生活に起因している。
王城に住まう騎士であったデュラハンは、私室には何も置かないようにしていたし、清掃も自身で行っていた。自宅である屋敷に帰れば専属の侍女もいたが、王城では一介の騎士と何ら変わらないと思っていたからだ。
「ほんと、綺麗にしてるわよね」
『そう、だろうか?』
ジャニスに褒められて、少し嬉しいと思ってしまうこの気持ちはなんなんだろうか。そう考えつつも、デュラハンはジャニスにイスを勧めた。
この部屋にはシンプルなティーテーブルしかない。向かい側に座れば、ジャニスとデュラハンの距離はとても近くなる。たが、嫌な感覚ではないとジャニスもデュラハンも感じていた。
「ねぇ、貴方は――――っきゃっ!」
いつものごとく他愛のない会話をしていた。ジャニスが、一人でここにいて寂しくないのかと聞きこうとしていたら、近くに雷が落ちたらしく、大気が揺れるほどの大きな雷轟が響き渡った。
ジャニスは身体をぶるりと震わせ、両手を固く組む。本当は耳を塞いだり、布団を被って、雷の音を消したかったが、流石に恥じらいはある。
その様子を見ていたデュラハンが、スッと立ち上がりジャニスの横にイスを動かした。
ピッタリと横にくっつき、ジャニスの左手をとると、指を絡めキュッと握り込まれた。
『我慢するな。して欲しい事があれば言え』
「っ………………うん」
デュラハンはあまりにも優しすぎる。
何かを抱きしめたいから頭を貸してくれとジャニスが言うと、素早く却下したものの、クッションは貸した。
ジャニスはクッションを右手で抱きしめ、左手はデュラハンの暖かさを堪能した。
この出来事はジャニスにとってもデュラハンにとっても、甘い楔になった。
お互いを知れば知るほどに、抜けられなくなる。