4:魂たち。
デュラハンに聞かれて、ジャニスは少年の霊との話を思い出す。
襤褸布を纏ったズタボロの薄っすらと透けた少年が近付いてきた時の執事の反応は、酷かった。
敷地内には霊力が溜まっており、霊感がない者にも幽霊が見える。ジャニスは通い始めた頃に気付いたのだが、執事は頑なに敷地外に停めた馬車の中で待機していたので、あの時が幽霊と接するのは初めてだった。
『何を話したんだ?』
「えー? 普通に他愛もない会話よ?」
子供の霊に自分もサンドイッチが食べたいと言われたが、実体がないから食べられないだろうとツッコミを入れて、なぜ食べたいのか、なぜそんなにズタボロなのかなどを話していた。
「そんなに昔でもないのよね、戦争でこの国が荒れていたのって。当時の王族は民の救済をしていたと教えられていたけれど、きっと末端にまでは届いてはいなかったのね」
『……あぁ。先代の王に変わってからだな、ここがこんなにも平和で、心が綺麗な者が増えたのは』
「悪い魂が少なくて残念?」
『いや。平和が一番だ』
デュラハンは刈り取る魂が減っても構わないと思っている。
確かに自分はそれらを刈り、一定数に達すれば解放されるが、それとこれとは別の問題だと考えているからだ。
「解放されたいと思わないの?」
『うむ…………実は良くわからなくなっている』
ジャニスに消されてしまった魂は、昇天していた。汚れを綺麗に取り払われ、輪廻の輪に戻っていると女神より言われていた。そして、救いようのない魂は綺麗さっぱり消滅させられていたのだ。
デュラハンはどこまで伝えるべきか悩んでいた。
『霊場に捕獲している魂が減ったが、解放が遠のいても負の感情は湧かない。むしろ魂たちが解放されて良かったと思っている』
その言葉にジャニスは少し驚くとともに、デュラハンに興味を持ったことへの解答が得られたような気がした。
「貴方、やっぱり優しいわよね」
そんな事を言いつつ、デュラハンがテーブルの上に置いた頭を特に気にしていなさそうだったので、ジャニスはそっと手を延ばしてみた。が、当然のごとくバレた。
「チッ」
『だから、令嬢が舌打ちするなと言っているだろうが』
「ちょっとくらい、いいじゃない。頭を撫でてあげたかっただけよ!」
『……ハァ』
デュラハンは今日一番の大きな溜息を吐いた。
いつもより沢山話してしまったこと、ジャニスに気を許しすぎていること、少しだけ靡きそうになったこと、色々と相まって、頭を抱えたくなった。
……頭はないが。
「はぁぁあん! 今日のデュラハン様は、沢山話してくださいましたわ」
「それはようございましたね」
「あと、人魂や幽霊たちを消してたのも怒ってなかったのよね。良かったわ」
「……」
『消していた』と言われた執事は、『どうやって』や『なんで』など色々と頭に浮かんだがグッと黙った。
そして、ジャニスの父である伯爵への報告はどうするか、頭を悩ませるのだった。