3:ピクニック日和。
古城には広大な鬱蒼とした庭園がある。
この百年ほどは手入れをされていないので、それはもう森のようなものだった。
「ふぅ。ピクニック日和ね!」
「…………そうで、ございますね」
朝イチで古城に来て、ある程度デュラハンと戯れて、休憩がてら庭園で昼食。
いつもなら馬車で待機している執事も、食事となれば手伝わざるを得ない。執事は馬車内で食べて欲しいとやんわりと伝えたものの、いつもの「嫌よ!」で素気なく却下された。
ゲギャギャギャギャ、ウォォォォゥゥゥン、ガギョォォォォ、などという謎めいた鳴き声もジャニスにとっては小鳥の囀りに聞こえている。たぶん。
「デュラハン様も一緒に食べて下されば良いのに」
「……食事、なさるんでしょうか?」
「実体あるし、何か食べてるんじゃない? 人肉とかじゃないといいけれど」
「…………」
そんなことを言いながら、チキンソテーを挟んだサンドイッチをもりもりと食べれるほどに、ジャニスのメンタルは鋼だった。
執事がそっと胃を押さえているが、お腹が減ったのかしら? 一緒に食べればいいのに。などと明後日の方向で気遣いをしていた。
『…………何をしているんだアイツ』
デュラハンがふと外を見た時、ジャニスが庭園で子供の霊と話し込んでいた。
子供は百年ほど前に国が荒れていた頃、貧困から窃盗を繰り返し続け、最終的には強盗殺人に手を貸してしまった子供だった。
ジャニスが楽しそうに話し込んでいる姿を見て、デュラハンの心はソワソワと落ち着きがないような、痒いような、苦しいような、不思議な感覚に陥っていた。
『……っ』
関わるべきではない。デュラハンはそう判断するものの、窓辺からは離れられず、子供の霊と楽しそうに会話するジャニスの姿を見続けたのだった。
ピクニックを終えたジャニスが古城のドアをノックし続けていると、デュラハンがゆっくりと扉を開けた。
午前中の反応からして、絶対に扉は開けてくれないと思っていた。珍しいこともあるものだと思いつつも、ジャニスは自身が入れそうな幅が開いた瞬間、扉の内側に滑り込んだ。
『普通に入れ』
「えっ……だって、いつも用件だけ言ったらすぐ閉めるじゃないの」
『……少し聞きたいことがある』
更に珍しいことがあるものだとジャニスの鼻息は荒くなる。
デュラハンが城内にジャニスを招き入れたのは、今この時が初めてだったからだ。
入口近くの小さなサロンに案内され、イスを勧められた。
中は思っていたよりも綺麗というか、普通に掃除されている。
「もっと埃が溜まっていたり、変な虫とか巨大な蜘蛛とかが巣を作っているのかと思ったわ」
『…………掃除くらいする』
掃除するとは言うものの、わりと大きめの古城なのだ。一人(?)で出来る範囲を超えていると思うのだが、ジャニスは突っ込むのはやめた。とりあえず、デュラハンの話が聞きたかったから。
『あの子供についてだ。何を話していた』
「あの子供? …………あ、さっきお庭で話していた子?」
『あぁ』
ジャニスは先程の庭園での会話を思い出す。
あの子は――――。