12:ストーカーになります!
ジェフリーを問い詰めると、思いのほかスルリと吐いた。
「何が私のためよ!」
「では訂正する。我が家の体裁の為だ」
「知ったことですか! ならば私はストーカーになります!」
謎めいた宣言をされ、ジェフリーは混乱状態に陥りかけた。
「い………………意味がわからん……普通に迷惑だろ」
「デュラハン様は市民……いえ、人間の外側にいらっしゃるので、刑法には触れません!」
そういうことじゃない、と言いたかったが、ジャニスが勢いよく部屋を飛び出したので、何も言えずじまいだった。
ただただ、ジャニスが去り際に侍女の腕をガッチリと掴んで行き、侍女が泣きそうな顔でこちらに手を伸ばしていたのには、正直心が痛かった。侍女が戻ったら、特別休暇と特別報奨を出そうと思うほどに。
「おぉぉじょぅぅぅさまぁぁぁぁ、かえりましょぉぉおおぅ?」
「シッ! 煩いわよ。来たわ! みてみて、あれがデュラハン様よ! 格好良いでしょ?」
「フルメタルアーマーなのでわわわわかりませぇぇぇんっ」
半泣きの侍女が帰りたいというものの、ストーカーになると宣言したのだから、ストーキングせねばならない。そんな超理論で現在ジャニスと侍女は夜の古城の壁面に張り付いて、窓から中をこっそり……もとい、堂々と覗いている。
「まぁ、箒で掃除を始めましたわよ」
「こんな時間に…………なんだか、チラチラとこちらを見られていますが?」
「気のせいでしょ、外はこんなにも暗いんだもの、バレてないわよ」
「そうでしょ…………ヒッ」
ふよふよ、人魂たちがジャニスの回りを漂う。もしかして、これに照らされて見えているのでは? と侍女は思ったが、言ったところでジャニスが考えを変えるとは思えなかったので、グッと黙った。
ジャニスからは絶対に離れず、無事に屋敷に帰るんだ、帰ったらジェフリーに配置換えを頼み込むんだと固く決意して。
『…………』
帰ったと思ったジャニスが、窓から城内を覗き込んでいることに気が付いた。
初めは気付かぬふりをして近くを通ったりしつつ、日課をこなしていたが、やることがすぐになくなってしまい、デュラハンはとうとう意味不明にも箒で床掃除を始めてしまった。
ジャニスと侍女らしき人間がいると、二人を見かねた霊に教えられた。
『……口出しするな』
『そうは言いますが、旦那ぁ、外は寒いでっせ?』
『っ…………』
そういえば、ジャニスの口からは白い息が見える。そんなことにやっと気付いたデュラハンは、慌てて城の外へと駆けていったのだった。
※同意のない(?)ストーカーは犯罪です。
この作品は、犯罪を推奨する意図はありません。