11:のた打ち回る。
さらりとした白銀の髪の毛は、まるでおとぎ話に出てくる王子様のようだった。銀糸の睫毛で縁取られている瞳は、燃えるような赤。
ジャニスはじっとデュラハンの瞳を見つめ続けた。
――――綺麗。
同じようにデュラハンも、ジャニスの瞳を見つめ続けた。
煌めき揺らめく金色のふわりとした髪。
突き抜ける青空のような瞳。
――――空が、ある。
『っ…………満足したか? もういいだろう? 頭を返せ』
見惚れていた事実を隠したくて、慌てて視線を逸してデュラハンは素気なくそう伝えた。だが、ジャニスはいつまでもデュラハンの頭を離さないし、見つめ続けていた。
ジャニスは分からなかった。
なぜこんなにも胸が苦しいのか。なぜこんなにもモヤモヤするのか。
「…………すき」
ぽろりと漏れ出たその言葉に、デュラハンもジャニスも身体を飛び上がらせるほどに驚いた。
『ぬぁ!? ヘブッ! 痛っ!』
パニックに陥ったジャニスは、あろうことかデュラハンの頭をベッドに投げ捨て、走って逃げてしまった。
デュラハンの頭は、投げられた勢いでベッドの上を転がり壁とベッドの間に落ちてしまった。
人の頭をここまでぞんざいに扱う者は見たことがないと軽くイラッとしながら、デュラハンが四苦八苦して頭を回収して部屋を見た時には、既にジャニスは馬車に乗って逃走したあとだった。
部屋にぽつんと残されたデュラハンは、頭に冑を被せながら先程のジャニスの顔を思い出す。
投げられる直前に見えたのは、りんごかと思うほどに真っ赤な顔だった。
『すき』、その言葉が自然とデュラハンの口からも漏れ出た。
屋敷に帰り着き、バタバタと部屋に駆け込む。
ベッドに勢いよくダイブしたジャニスは、先程の事を思い出してしまい、ベッドの上をゴロゴロと転がったり、手足をジタバタとさせた。
侍女は見てはいけないものを見てしまったと、慌ててジャニスの部屋から出たところで、ジェフリーに声を掛けられた。
ジャニスの様子はどうだ? 機嫌が悪いだろう? 面倒であれば暫く放置してていい。そう言われて、首を傾げる。
「機嫌は…………とても良い方だと」
「は?」
ジェフリーは予想外の返答に頭の中に様々な疑問が沸く。
「デュラハンの顔がありえないほどに格好良かった、と頬を染めておいででした」
「……は?」
二度とジャニスと関わらない為に、デュラハンは顔を見せたのかとも思ったが、あのジャニスだ、それで満足して二度と古城に行かないという選択肢は無いはずだ。
ジェフリーは予想外の展開に理解が及ばず、ジャニスに直接問いただすことにした。
「ジャニス、ちょっといいか?」
恐る恐るジャニスの部屋を覗いてそう声をかけると、ベッドでのた打ち回っていたジャニスがピタリと止まり、ジェフリーを睨みつけた。
「ちょっとも良くないわ。お兄様のせいでしょ――――」