10:二度と、ですって?
『帰れ。二度とここには来るな』
『二度は言わない。次にこの地に足を踏み入れたら、お前の家族全員の魂を回収する。すぐに立ち去れ』
ジャニスは言われた言葉を脳内で暫く反芻した。
――――なるほど?
そして徐ろに行動を始めた。
ゆっくりとそっと壁沿いを歩き、以前利用していた侵入場所へ。施錠されていない窓を開け、よじ登る。
馬鹿ね、こんなに隙だらけの建物なのに、拒絶なんて意味が分からないわ。そう、心の中で悪態を吐きながら。
ジャニスが城内をズンズンと突き進む風体は、まるでこの城の女主人とでも言えそうなほどに堂々としたものだった。
いつもならふよふよと近寄ってくる人魂たちも、ジャニスの雰囲気に押されて遠巻きに見つめている。
ドアノブに手を掛け勢いよく開いたのは、デュラハンの私室の扉。
『――――っ!?』
デュラハンはベッドに座った状態で、上半身を投げ出し両手を広げて寝転がっていた。いつもの規律正しいデュラハンとは思えない格好に、ジャニスは一瞬ときめきを覚えた。自分だけがこんな姿のデュラハンを見れるのだという、優越感にも浸ってしまった。
ふとデュラハンから視線をずらすと、頭部がベッド上に適当に転がされ、デュラハンの手が届かない場所にあった。それを見たジャニスは一瞬で判断し、令嬢あるまじき速さと格好で走け寄った。頭部に。
『なっ!?』
「とったぁぁぁぁ!」
デュラハンの頭めがけて、ベッドに華麗にダイブ……したとジャニス本人は思っているが、実際はデイドレスの裾は捲り上がり大股開きという、あられもない格好だった。
幸いなことに、デュラハンの頭はジャニスの腕というか胸の中。諸々は見られていなかった。
『返せ』
「嫌よ!」
『二度とここには来るなと言っただろう?』
「二度と、ですって? 一度も敷地から出てないから、まだ二度目ではないわ」
『屁理屈を…………』
ジャニスの胸元で何度も『出ていけ』と低く暗い声で言うが、彼女は聞く耳持たずだった。彼女の体で視界が遮られ、身体を思うように動かせず、デュラハンの中にイライラが積もっていく。
「昨日の今日で何があったの?」
『何もない。頭を返せ』
語気を強め素気なく言い切るデュラハンにイラッとしたジャニスは、暴挙に出る。
『なっ……やめろ…………』
「嫌よ!」
あろうことか、デュラハンの頭を冑から取り出したのだった。
『っ!』
「あ…………」
二人は視線が絡み合った瞬間、時間が止まったような感覚に陥った――――。
ではまた明日。