現実
さっき起きてすぐの頃には覚えていたのに、通学路を歩く今ではもうよく覚えてない。今朝の夢の内容がなんだったかなんて考えることすら意識にないようなものだった。ぼーっとしながら通学路を歩いていると、前を歩く人影にふと気づいた。
「なんで、お前が、、、」
心の中でそう呟きながら、目の前の惨状(?)を受け入れられずにいた。優芽が隆と歩いている。しかも、2人でだ。嫉妬に心が包まれる前に、疑問の嵐が頭をかけめぐる。なんで?あの2人が?昨日隆が話しかけてるのは見たけど、、。そういえばその先どうなったかなんて知らない。僕は逃げたからだ。目の前の現実がどうなるかを知ることよりも、常に自分を受け入れてくれる夢へ逃げたのだ。僕が逃げてるうちに、隆は一緒に登校する約束をしたのかもしれない。もしかしたら、下校も一緒にしてたのかもしれない。たまたまさっき会っただけという可能性もあるけれど、それにしたって一緒に登校するなんて羨ましい。夢を見てただけの僕は何も変えられなかった。そう思った時突然、強いデジャブに襲われた。
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「夢を見てたって、何も変わらないよ。」
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誰に言われたのか、はたまた自分が言ったのか、何もわからないけど、この言葉はどこかで聞いた覚えがある。眠って夢を見ることが大好きな僕にとってはかなり痛烈な言葉だ。
「真理が言ったのか、、?」
ちょっと考え込もうとしたところで気がついた。学校に着いていた。僕の意識の9割を持っていく人影たちは、僕の数十メートル先から、気づけば数メートル先になっていた。そのまま彼らは同時に教室へ入って行った。教室に入って僕は非常に苦しい気持ちになった。新しい学校とはいえ、公立中だから人間関係ができるのはかなり早い。隆と優芽がイジられている。
「ヒューヒュー!いきなりラブラブ登校か〜!」
「青春ロケットスタートかよ!」
「うるせー!途中で会っただけだよ!」
そんな会話が聞こえてくる。禁止されてるから持ってないけど今すぐ耳にイヤホンを挿したい。現実逃避が僕の癖だ。なんでこんなにイジりを聞くのが苦しいんだろう。優芽に隆が接近してることを感じるから?きっとそうだろう。でももっとなにか根本的なものがあるはずなんだ。それはもう最初から分かっていたことだけど、考えれば考えるほどもっと苦しくなるものだ。自分が何も出来ていないことを痛感するから、だ。
昼休み、母の弁当を食べて窓の外の快晴の天気を眺める。貴族になったかのように校庭の様子を窓から見下ろす。隆がいる。数人でサッカーをしているようだ。
「バスケ部なのにサッカーもできるのかよ。」
僕以外誰もいない教室の中でそう呟いた。
「父親がサッカー好きでよく教わってたんだって。」
聞いたことのある声が後ろからして振り返る。誰かいることに対する驚きは、その人物を認識した嬉しさでかき消された。
「今朝登校してる時に聞いたんだ。あの子ほんとに話好きよね。朝からマシンガントークされて耳が疲れたよ。ふー。」
ため息を吐きながら僕の隣の席に優芽が座る。嬉しさと緊張に心が覆われる。一言で言うならカオスだ。
「へ、へーっ。一緒に来てたんだ。」
そういうと優芽はきょとんとした顔で返事をした。
「え?君、後ろにいたでしょ?」
やばい。気づいてたんだ。焦って口にしたことが気まずさを呼んでしまうかもしれない。少し焦ったような素振りを見せると、
「まぁ、なんでもいいよ。あっそーだ、私ひかりに教科書借りないと!じゃーね!」
そういって、同じ小学校の隣のクラスの子に会いに行くために彼女は去っていった。一瞬の出来事だったけれど、少しの間彼女と一緒にいれたことは僕にとって嬉しい限りだった。体内で分解される炭水化物と暖かい日光によって呼び出された睡魔が僕を昼寝へと誘う。起きたら腕が痺れていることなんて考えもせずにそのままずっと寝続けた。
続く