〜夢に向かって〜
夢。
この社会ではそれを持つことで周囲の人間から褒められることがほとんどだ。夢があって初めて実現することが出来るのだと、人は言う。では夢のない人はどうなのだろう。生きる価値がないのか、、、。はたまた未知の可能性を秘めているのだろうか。そんなつまらない事を考えながら、小学校卒業の日を迎えた。
「おーい、写真撮ろうぜ。」
そんな事を言いながら僕の腕を掴むのが一番の友人である智也だ。智也は中学受験をして、僕は公立の中学校に進学するため中学からはなかなか一緒に遊べなくなる。だから本来なら乗り気で写真を取るのだが、僕にはどうしてもしたいことがある。簡単な話だ。好きな子と写真を撮りたいのだ。いや、この際話すだけでもいい。彼女の進学先を僕は知らない。もしかしたら、もう会うこともなくなるかもしれない。
「なんだよ、お前。テンション低いなぁ。人と写真取るんだから笑えよな。」
「ごめん、ごめんって。さ、早く撮ろうよ。」
智也のお母さんのスマホのシャッター音が僕の心臓になぜか突き刺さる。たくさんの友人達と話していても僕の心はそこにはなかった。機会を伺っていた。なぜ僕が彼女に想いを寄せるかと言うと、理由はありすぎて困る。彼女とは幼稚園が同じで幼馴染なのだが、小学四年生までは恋愛感情だとは思っていなかった。彼女が他の男子と仲良くしているところを見てもやもやが心にできた。一週間考えてそれが恋だと気づいた。
「優芽ーー!帰ろー。」
その声で意識が帰ってきた。おかえり、と考える暇もなく焦りが積もった。
その声の主は梨花だった。優芽の親友。つまり僕の好きな子の親友だった。
「そうだね。帰ろうか。」
優芽の声が段々と遠くなって行く。僕の足と口はどれだけ動けと命じても震えているだけだった。彼女の姿が見えなくなるまで、ただただ遠くから見ることしかできなかった。沈む太陽が彼女の姿に重なり、なんとも言えない虚無感に襲われた。半年以上前から考えてきた。なんて話しかけるか。何を話すか。ここ最近の目標、いや夢を叶えられなかったひたすら悔いることしかできなかった。僕はこの日、自分の勇気の無さを実感し、自分のことが少し嫌いになった。夢は持つだけでは意味がないと、心に刻んだ。
「桜の花がーー。」
中学校の入学式、体育館の壇上で生徒会長の話す言葉は僕にはどうでもよかったから、適当に聞き流していた。心が激しく動揺していた。クラス分け一覧を見たとき隣のクラスの一覧に優芽の名があった。僕にとってはそれが何よりも嬉しい入学祝いだった。仲の良かった友人が同じクラスになったとか、クラスにとても可愛い子がいるとか周りが騒いでる事全てが僕にとってはどうでも良かった。いや、どうでもよくなってしまった、と言う方が正しい。
「よーー!同じクラスだな!よろしくだZE!」
僕の友人であるサトミが話しかけてきた。彼は四年生の時によく一緒に遊んでいた。懐かしいな。公園で一緒に当時流行っていたゲームをやりこんでいた。五年生になってクラスが別になってからあまり遊んでいなかったから、きっと何時もの僕だったら喜んで会話をしたんだと思う。でも僕には落ち着きがなかった。
「あぁ。久しぶりだね。よろしく。」
「おう!なんかお前、、、。まぁいいか。うん。じゃあ、またな。」
ありきたりな台詞しか口にすることができなかった。そんな僕に何かを感じたのかサトミは直ぐに別の人の所へ行ってしまった。少し落ち着いてきて、ふと疑問が浮かんだ。サトミは頭が良かったからどこかの私立中へ進学するものだと勝手に思っていた。母親の言っていた公立中学校には優秀な人から勉強が苦手な人までたくさんの人がいると言うことがやっとわかってきた。
「出席番号10番ーー。」
自己紹介をオーソドックスに済ませた僕はひとまず緊張から解放された。
「山田梨花です!好きな食べ物はーー。」
なるほど。梨花もこの中学校にきたのか。優芽も嬉しいんだろうな、なんて少し気持ちの悪い事を考えていた僕はまだここから始まる日々のつまらなさを知らなかった。
下校中、私立中の入学式を既に終わらせた智也に会った。
「我らが天青中はもう入学式が終わっている!さあさあ、今から遊ぼうぜ!」
朝からラインで既になん度も言われている事を再び言われた。
「もう聞いてるよ。なんでそんなにテンション高いの?」
足元の石を蹴りながら朝から気になっていた智也の妙な陽気さを尋ねた。
「いつも通りだよ。お前が卒業してから暗すぎたせいで明るく感じるだけだっつーの。」
「そう?まぁなんでもいいけどさ。今日は何するのさ。またゲーセンでも行くか?」
「ノーノー。今日は俺の家で新作のゲームやろうぜ。」
ここでやっとわかった。智也の陽気さの原因はこれだと確信した。気づいたら足元の石も無くなっていた。
家に帰ると誰もいなく、静かだった、、ことは今までにあっただろうか。玄関のドアを開けると妹が飛び出してきた。名前は真莉。僕は知らないがなかなかにモテているらしい。
「入学式どうだったー?私も早く中学生になりたいなぁ。」
「ははっ。そうだね。楽しみにしときな。」
話す妹を鮮やかにかわし、自分の部屋に入り、着替えをすませ再び外へ出た。
その時、ふと何かに傷がついた様な気がした。きっと気のせいだ。早く行こう。
ーーー
「もう私とは遊んでくれないのかなぁ。フンッ。もういいもん、、、。」
自然と目から涙が出ていることに私は気づかなかった。
私の夢、叶わなかったなぁ。入学式で学校が早く終わるから一緒に遊ぼうって思ってたのに。夢なんて叶うことなんて無い、そう思ってしまった。
ーーー
布団の中で考え事をしていた。過去の反省を活かした恋愛作戦を。明日の朝挨拶をしに行こうかな。また優芽の笑顔が見たい。一緒に笑って話したい。今度こそ後悔しない。夢を叶えるんだ。そんなことを考えている間に自然と意識は消えていった。
「おはよう!」
過去一大きい声を出してしまい恥ずかしさが自分を襲おうとした。
「うん。おはよう。」
恥ずかしさ、やらかした感、それらを感じることはなかった。まるでダイエット明けのケーキのように彼女の笑顔は僕を幸せにした。今ならどんなことをされても許せる自信がある。教室まで話しながら向かった。正直会話を切らないことにいっぱいいっぱいで何を話したのか自分でもよくわからない。ただ幸せだった。教室まであと五キロあってくれと軽く願っていたことだけは覚えている。教室で一人でいるときにいろいろなことを考えていた。少し話しただけでワンチャンあるんじゃ無いかと頭の片隅で考えてしまう自分が嫌になる。でも、一つ夢が叶ったことで自分に大きな自信がついた。この日はサトミとも楽しく話すことができた。好きなアーティストについて話し、グッズ交換の約束までした。あとから振り返っても文句が一ミリも思い浮かばない一日だった。
続く
お読みくださり誠にありがとうございました。
スーパー初心者なので不快に思われる方もいらっしゃると思いますが、暖かい目で見守っていただけると幸いです。