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9 婚約者(オットー)視点

 更新に時間がかかってすみませんでした。

 一章事に語り部を変える方式をとったため、毎章短編を書いているようで、思いの外大変です。自業自得ですが・・・

 これからも多少時間がかかると思いますが、完結を目指したいと思っています。

 俺はオットー=ラウヘェン。伯爵家の三男で、王城の騎士をしている。

 三男なので家を継ぐ可能性はまず無い。何処かに婿入りする以外、爵位を持たないただの騎士として生きていくしかない。そんな俺のところにある結婚話が舞い込んできて驚いた。相手はなんと女公爵だ。

 婿入りの場合、その多くは結婚の際に当主の養子に入って爵位も継ぐが、相手は既に女公爵になっているので、結婚しても俺が公爵になれるわけではない。ただの女公爵の夫に過ぎない。

 しかも、その女公爵は色々と曰く付きの女だった。

 

 ローゼス公爵家と言えばリリースリー公爵家と並ぶ、我が国において王家をお守りする二大勢力だ。

 数年前、彼女は前当主が旅先で病死して爵位を継いだ。前当主夫妻には子供がいなかったので遠縁の子供を養子にしたらしいが、養子にするなら男にすればよいものをと巷では噂になっていた。

 本当は前当主の隠し子か、年若い愛人なのではないか、という話さえも囁かれていた。

 

 しかも、彼女は二度も婚約破棄されている。相当な美人らしいが、一度ならず二度とも相手から破棄されているとなると、かなり性悪なのか、変人なのか。

 そんな問題のある女と絶対に結婚なんかしたくはなかったが、公爵家からの話を無下にするわけにはいかず、会うだけ会う事になった。いくら疵物とはいえ、女公爵だから、誰でもいいというわけでもないだろうし、俺なんか相手にはしないだろう。

 俺は真面目だけが取り柄の、何事も平凡な男なのだから。

 

 ところが仲介をしてくれたとある伯爵邸で会ったローゼス女公爵は、噂で聞くような女性では全くなかった。所詮噂とは当てにならないものだと今更ながら思った。

 婚約が決まった時、シェリーメイの最初の婚約者カール=ベイクスと、二度目の婚約者ヴィルヘルム=コッフル様との婚約解消に至った経緯を聞いて驚いた。噂とは真逆で、相手が一方的に悪く、彼女には何一つ落ち度などなかったのだ。

 

 

 シェリーメイが先々代当主に命じられてカール=ベイクスと最初の婚約を結んだのは、まだ十四の時だった。カールは候爵家の二男で、城勤めの兄に代わって領地経営を任されて業績を伸ばすほど優秀な男だった。当主によってその商才を買われての抜擢だった。

 彼は才気煥発で見かけは少し野性味のある美丈夫だった。向上心と言えば聞こえがいいが、かなりの野心家で、何事も強引に物事を進めるタイプだった。そんな所は当時の当主とよく似ていた。 

 

 カールはローゼス公爵家の養子になって爵位を継ぐのではなく、いずれ女公爵の夫になるという約束で婚約したが、そのうち段々と腹黒い野望を抱くようになった。

 現公爵は老人だ。この男が生きているうちは大人しい振りをして、婚約者を自分の虜にして、何でも言う事をきくよう支配下に置いてしまおう。そして、彼女自ら公爵位を夫である自分に譲るように仕向けるのだと。

 

 だがカールは当主同様人を見る目が無かった。一見強面で厳格な父親とは真逆で大人しい男だと思っていた当主の息子は、カールのような若造が簡単に操れる人間ではなかった。公爵家のぼんぼんだろうくらいに思っていた上品で物静かな見目麗しい優男は、寧ろ父親と違いとても切れ者だった。

 

 将来の義父になるシャルドネが当主になった時、カールにこう言った。

 いずれシェリーメイが当主になった時には、夫の君と領地経営をしなくてはいけないから、その経験を積む為にも君の仕事を手伝わせてみてくれないかと。

 その時シェリーメイは十六歳で、既にローゼス公爵家の経理などは手伝い始めていたが、もっともっと勉強が必要だから、君の元で教えて欲しいと頼まれた。

 確かに公爵領の経理を自分だけがするというのも大変そうだ。シェリーメイが手伝えるようになれば将来助かるかも知れない。

 

 カールは実家のラウヘェン領へ、シェリーメイと侍女二人と共に向かった。

 しかしそれがカールにとっては没落の第一歩だった。カールには人の能力を見極める才がなかったのだ。

 シェリーメイはかつてこの国一の才女として有名だった母親と、二十歳そこそこで男爵位を得るほど商才に長けた父親の能力をしっかり受け継いでいた。彼女はカールに教えを請うというより、彼の能力を見極める為に、彼が実質治めている実家の領地へ同行したのである。

 

 シェリーメイは彼の領地に着いてそうそう、帳簿の不備に気が付いた。

 カールは帳簿を操作して、収入の一部を懐に入れ、少なく見積もって税金もごまかしていた。シェリーメイは侍女の一人をすぐさま、義父のシャルドネの元へ報告に行かせた。

 

 一週間後、カールがそろそろ王都へ戻ろうとした時、突然何の先触れも無しに、次期領主である兄がローゼス公爵と共にやって来た。普段大人しい兄が酷く険しい顔をしていたので何事かと思っていると、兄は弟ではなく、その婚約者の方を見て言った。

 

「例のものを見せてもらいたいのだが」

 

「はい。こちらです」

 

 何の事かわからないカールが戸惑っているうちに、シェリーメイはいくつかの付箋を貼った帳簿を手渡した。

 ベイクス候爵の次期当主はその帳簿の中を確認すると、深いため息をつき、ローゼス公爵と令嬢に向かって深々と頭を下げたのであった。

 

 脱税の罪は重い。この事が公になれば追加算税を取られた上、罰金もので、社会的制裁も受けなければならない。ベイクス候爵家は自ら申告漏れを申請する事で、この不名誉から逃れる事が出来た。

 ところが、ベイクス候爵家はローゼス公爵家からのその恩を仇で返した。シェリーメイから婚約解消したにも関わらず、カールの方から婚約を解消したのだという真逆の嘘を意図的に流したのである。大切な跡取り娘を傷ものにされ、ローゼス公爵家は怒りに震えた。

 しかし因果応報とはよく言ったもので、その後間もなくしてベイクス候爵家は没落の憂き目を見た。

 

 脱税と横領が発覚したカールは、家の名誉のために罪は表沙汰にはならなかったが、当然勘当されて家を追い出された。偉そうにしていても所詮一人で平民として生きていく術を知らない男は、恋人の男爵家を頼ろうとした。

 そう、カールはシェリーメイと婚約する前から恋人がいたのだ。自分が公爵になったら側室として迎えて、何不自由のない暮らしをさせてやるとのたまっていたらしい。元々娘を弄ばれたと怒っていた男爵一家が、カールを快く思っている筈もなく、娘に会いに、いや縋りにきたカールを散々罵って追い払った。当然である。

 しかしカールは逆上して男爵家に火を放って逃げた。そして自分を破滅させたとしてシェリーメイに逆恨みをして、帰宅途中の彼女を襲ったのだった。もちろん屈強なローゼス公爵家の護衛にすぐに捕まえられ、投獄され、一連の罪が全て明らかになって、生涯地下牢暮らしとなった。そしてその(とが)は彼の実家であるベイクス候爵家にも及んだのである。当然である。

 

 シェリーメイは完全に被害者であったが、一度流れ出た悪意ある噂はもはや消し去る事が出来なかった。

 その時受けた顔のかすり傷はすぐによくなり、昔に付けられた額の傷のように残る事はなかった。しかし、心に受けた深い傷痕はしっかりと彼女の中に残ったのだった。

 

 その後シェリーメイは二十歳の時に、伯爵家の二男ヴィルヘルム=コッフルと婚約した。彼は城に勤める事務官だった。誠実を絵に描いたような男で今度こそシェリーメイは幸せになれるだろうと皆思っていた。

 ところが、ヴィルヘルムはとあるご令嬢のハニートラップに見事に引っ掛って浮気をした挙げ句、シェリーメイに婚約破棄を言い渡した。彼は当然その浮気相手と結婚して爵位を譲り受けられると思っていたが、相手の令嬢は彼を単なる遊び相手としか見ていなかったので、すぐに振られてしまった。

 ヴィルヘルムは犯罪を犯したわけではないので、そのまま城勤めを続けたが、醜聞にまみれて辛いものがあっただろう。公爵家に睨まれた彼に付き合おうとする高位貴族がいる訳がないのだから。まあ自業自得だが。それにしても、今回もシェリーメイには何の落ち度もないのに、彼女にとって不名誉な噂が何故か出回ったのである。

 

 シェリーメイは本当に非の打ち所がない素晴らしい淑女だった。美人でスタイルもよく、頭も良かったがそれを見せびらかす事もなく、とても謙虚で控えめだった。そして慈悲深く、公爵邸には彼女が面倒をみている何人もの孤児がいたが、彼らは皆立派に教育されていた。

 

 執事は今度こそは女主に幸せになって欲しいと願い、彼女の恥とも思える過去の経緯を俺に話してくれたのだろう。元の婚約者のような過ちを起こさないように。

 俺も彼の思いに応え、俺こそがシェリーメイを幸せにしてみせると心に誓っていた。そう、誓ったのだ。それなのに、まんまとあの毒蛇親子の罠に落ちてしまった。どうしてなんだろう・・・


 三人目の婚約者オットーの目を通して、これまでのシェリーメイの婚約破棄に至った事情を説明してみました。

 読んでくださってありがとうございました。

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