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6 実父(トーマス)視点

更新が遅くなりました。


この父親は、娘シェリーメイ同様に運の悪い人物です。蛇男の最大の被害者と言えます。

 俺の現在の名はディーン=ターナー。数カ国の言葉を自由に扱い、各国を渡り歩く貿易商だ。

 

 元々大きな貿易商の家に生まれたのだが、幼い頃から商売の才があったらしく、成人した頃は一端(いっぱし)の成果を出し、一代限りの男爵位を賜っていた。当時は当然本名のトーマス=エドワードと名乗っていた。

 

 母国の貴族令嬢達が喉から手が出るほど欲しがっている某国の香水を取り扱っていた為、俺は多くの高貴な令嬢との付き合いがあった。

  

 令嬢達は見栄や欲望のために、高級品を絶えず求めたが、いくら貴族とはいえ、その全てを手に入れられるわけがない。すると、色仕掛けで商売人に取り入って、気がある素振りをして商品の値を安くさせたり、プレゼントとして要求してくるご令嬢がいる。

 

 海千山千の商売人がそんな手に乗るわけがない。そもそもそんな女の罠に簡単にひっ掛かるような者が貴族御用達になれる訳がないのだが、悪知恵はあっても所詮世間知らずの彼女達はその事に気付かない。

 自分の魅力で商人に値段を安くさせられたと満足げである。本当はむしろ、どうせ物の価値などわかるまいと高く買わされている事に気付かない、その愚かさには正直哀れみさえ覚えていた。

 

 自分でいうのもなんだが、俺は背が高くて体格がいい。それにそこそこの容姿をしているらしく、貴族のご令嬢にはうんざりする程モーションをかけられた。

 しかしわざとらしい貴族令嬢には辟易していたので、彼女達の誘いには乗らず、いつもにこやかに微笑みながら上手く捌いていた。

 

 そんな俺がなんとある貴族の令嬢に恋をした。

 俺は宗教心の強い母親の影響で、幼い頃から週末には教会へ通っていたのだが、王都の教会へはまだ一度も足を運んだ事はなかった。高位貴族と顔を合わせるのが面倒で嫌だったからだ。

 しかしある時、王都に長く滞在する用事が出来た。三週間ほど教会へは行かなかったが、そんなに長い事行かずにいた事がなかったので、なんだか気分が落ち着かなくなってきた。

 考えた末、貴族と顔を合わさずに済む平日のある日、俺は王都の中の平民街にある古い小さな教会へ足を向けた。そこなら顔見知りの貴族とは会わないで済むだろうと。そしてそこで俺は妻と運命的な出会いをした。

 

 誰もいない教会の祭壇の前で片膝をついて、今日までの無事に感謝し、何事も無く地方にある実家へ帰れますようにと祈った。そして立ち上がって帰ろうとした時、祭壇横の扉が開いて素っ裸の子供が飛び込んできたと同時に、女性の声がした。

 

「アレン、駄目よ、逃げないで! ちゃんと水浴びしないと汗疹(あせも)が出来るわ」

 

 眩いばかりに輝く金色のウェーブヘアを後ろに緩くしばり、雪のように白い肌はピンク色に上気して、玉のような汗を流している碧眼の美しい若い女性に、俺は一目で恋に墜ちた。

 彼女の名前はマリエッタといった。もし俺がもっと社交家で噂話の好きな人間だったならば、この名前を聞いた時点で彼女の身分を察し、片思いの傷が深くなる前に、彼女に近づくのをやめていたであろう。

 

 マリエッタは麻の質素な膝下のワンピースを着て、教会に付属している孤児院で奉仕活動をしていた。真夏だったので、子供達に水浴びをさせようと庶民の服を着ていたが、彼女の気品溢れた容姿と身のこなしで、すぐに貴族の令嬢である事は分かった。

 俺は地元の教会でやはり奉仕活動で子供の世話をしていたので、子供の扱いには慣れていた。ふざけて逃げ回る子供をすぐに掴まえて抱きかかえると、彼女と共に中庭へ出てた。そして上着を脱いで両袖のシャツを捲り上げ、子供達の水浴びを手伝った。

 俺は彼女やシスターと共に汗や水の飛沫でビショビショにながら、二十人程の子供達を水浴びさせ、大きな子供達に、タオルで拭いてやるように指示をした。

 

 濡れたズボンが乾くまで休んでいって下さいとシスターに言われて、俺は中庭の隅に設置された粗末なベンチに腰を下ろした。

 

「随分子供のお世話に慣れていらっしゃるんですね。今日はとても助かりました」

 

 マリエッタは俺にお茶を淹れてくれながら言った。その手つきがあまりにもぎこちなかったので、おかしくなったが、貴族のお嬢様なのに人に命じるわけでなく、自分でやろうという姿勢に好感を持った。

 

「昨年亡くなった母が昔からずっと慈善活動をしてましてね、私も幼い頃からその手伝いをしていたんです。今でも故郷にいる時は、出来る範囲で参加していますよ」

 

「まあ、私のような付け焼き刃じゃないんですね。道理でてきぱきとされていましたわ。どうか都へ出ていらした折りは、こちらでご指導してくださいませ」

 

 今まで都で出会った女性は皆仮面をかぶったような笑顔だった。しかし、マリエッタの見せる笑顔はとても自然で、とても美しかった。ずっとこの笑顔を見られたら、どんなに幸せだろうと俺は思った。


 それから俺は王都へ出かける度にその教会へ通った。彼女に会えても会えなくてもそれはそれでかまわなかった。多分、彼女には既に決まった人がいるだろうから、なまじ約束などをして彼女に迷惑をかけるのは本意ではなかったのだ。もし偶然にでも彼女に会えたなら嬉しい、そう思っていただけなのだ。

 それなのに教会へ行く度に俺はマリエッタと顔を合わせた。何故? そんなに毎日のように教会へ通っているのか? 学校はどうしているんだろう。

 

 ある日、マリエッタがいない時にシスターに彼女の事を尋ねてみた。そしてあまりの驚きに俺はそのままふらっと教会を出た。

 彼女はローゼス公爵家の令嬢だったのだ。その輝くような美貌と抜群のスタイルで、『黄金の薔薇』と呼ばれていた、社交界一の貴婦人だと評判の女性だったのだ。

 その上優れた頭脳を持ち、飛び級で貴族学校を卒業した才女だった。だから彼女は平日でも教会に来ていたのだった。

 

「あはは! ・・・」

 

 最初から分かっていた。多分彼女は高位貴族で、きっと自分とは釣り合う女性ではないだろうと。しかし、まさか公爵令嬢だったとは。しかも、社交界に疎い自分でさえ噂で聞いている、あの『黄金の薔薇』だったなんて・・・

 

 俺はその教会へ通うのをやめ、それからまもなくして国へ帰った。

 しかしそれから二か月ほどたった頃、一人暮らしをしていた俺の家に、突然父親が乗り込んで来て俺を殴った。

 

「お前は何ということをしてくれたんだ! これで我が家はおしまいだ」

 

「はぁ? 何なんですか、一体。俺が何をしたというんですか?」

 

 訳がわからず、またもや殴ろうとしてきた父親の腕を掴んだ。俺には殴られるような事をした覚えが全くなかった。

 すると、父はわなわなしながら、開きっぱなしになった部屋の扉を指し示した。そこにはなんとマリエッタが立っていた。

 

 マリエッタは言った。

 

「私が貴方を好きだという事が家にわかってしまって、父に無理矢理に嫌いな男と婚約させられてしまいました。ですから私逃げてきました。どうか私を貴方の妻にして下さい。お願いします、トーマス様!」

 

 

 世間では公然の秘密として、俺とマリエッタが駆け落ちした事になっているようだが、実はマリエッタの押しかけ婚だった。

 俺はマリエッタとは付き合うどころか、思いも告げてもいなかったのだから。もちろん、彼女を愛していた事は間違いないが。

 

 そんな経緯もあり、マリエッタは勘当になったが、俺自身にローゼス公爵家から何かお咎めがあったわけではない。ただ、挨拶を含めて一切の連絡をとる事を拒否されたが。

 そしてあの蛇男の執拗な恨みを買うことになったのだった。


読んで下さってありがとうございます。次章も引き続き読んで頂けるように、頑張って書いていこうとおもいます。


〜後半を訂正しました〜

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