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4 執事長(フォルト)視点

 私の名前はフォルト=グロースベルク。ローゼス公爵家の執事長です。執事長とはいわば名誉職。実質隠居しているようなものでして、かつて私が行っていた業務のほとんどを、今はアマンド=ドーテが引き継いでおります。

 

 アマンドはまだ十七歳ですが頭脳明晰で肝が据わり、既に完璧な執事として仕事をこなしています。

 

 当時はまだ先代のローゼス公爵が当主だった六年前の大雪の日に、領地の館の女主人であられたシェリーメイお嬢様が、突然彼を連れ帰り、屋敷で働かせると言いました。

 あまりにも突然の事に私は大変驚きました。

 

 アマンド=ドーテという名前の少年は当時は十一歳。年齢の割には小柄で痩せていて、着ている服もボロボロでした。

 こんな浮浪児をどうして連れて帰ってきたのだろうと怪訝に思っていましたが、彼がフードを脱いたその時、思わず『あ!』と声が出てしまいました。そして主人の意図している事が何となく理解できました。

 

 アマンドはそれはそれは美しい少年でした。まるで少女と見紛うくらいに。

 雪のような白い肌をし、金色の瞳を持ち、一部が金色というメッシュの銀髪をしていました。

 

 金銀メッシュヘアーに金色の瞳とは王家の血筋を示しています。そして、王家の血筋を引く公爵家などにもたまに誕生します。そう、例えばリリースリー公爵家の現当主のように。

 

 お嬢様はアマンドにこう言いました。

 

 一年間賃金は無しですが、衣食住の生活は保証しましょう。そして厳しい使用人教育を施します。

 一年後、貴方に見込みがないようなら、ここを出て行ってもらいます。その際、多少の仕度金はあげましょう。

 もし見込みがあるなら、この屋敷で雇います。もちろん、拒否しても構いません。その場合新しい仕事先の身元保証人になってあげるし、当座の仕度金もあげます。

 途中で怠けるようならその時点で出て行ってもらいます。

 それと、最初からやる気がないのならば、天気が良くなり次第出て行って構いません。

 さぁ、今日は夕食を食べて休みなさい。返事は明日朝食後に聞きます。 

 

 アマンドの後にカタリー、そしてその他二十人ほどの浮浪児や孤児院にいた子供達が屋敷にやって来ました。

 元々帰る家のない子供達でしたから、天気が良くなったからといって出て行った子は誰もいませんでしたが、やる気がなくて追い出された子が五人、盗みを働いて矯正施設へ行った子供が二人、一年後にものにならなかった子が三人、他所へ仕事を見つけた子が六人、そしてこのお屋敷に残った子が、アマンドとカタリーの他に後四人でした。

 

 使用人教育はそれはそれは厳しいものでした。読み書き計算はもちろんのこと、地理に歴史に外国語、行儀作法、体術、剣術、料理、裁縫、工具の遣い方・・・・・

 

 それらの教育はそれぞれ一流の専門家によって行われ、一切無駄なく進められました。

 しかし、厳しいとはいえ何もムチを使って暴力的に行われたわけではないし、決められた時間内で進められました。

 

 主人は彼らをけして甘やかしはしませんでしたが、頑張ればきちんと褒める事は忘れませんでした。そしてバランスのよい食事をきちんと与え、成長に合わせて衣服を新調し、規則正しい生活を送らせました。

 

 約束の一年が経たないうちに脱落した子が多かったのは最初の年でした。それはノウハウがまだ整っていなかったからというより、アマンドとカタリーが飛び抜けて優秀すぎたために、他の子達がひねくれたり、いじけたり、酷く劣等感を持ったせいでした。

 主人は勝ち負けを競わせていたわけではなく、やる気や、その子の特徴を大切しようとしていたのですが。

 

 アマンドとカタリーは本当に拾いものでした。二人はいわゆる天才と呼べるのではないかと思われる子供でした。

 二人は元々基本の読み書き計算は出来ましたが、その応用や新しい学びに対しても乾いた砂地が水を吸うように習得していきました。

 

 カタリーの方は頭も良かったが、特に手先が器用で、物作りの腕は飛び抜けていたましたよ。

 子供達の教師役を任された館の料理人は、最初はいやいやでしたが、カタリーに対しては目を見張り、彼女に教える事にやり甲斐さえ見いだしていましたよ。裁縫を教えていた侍女とどちらの弟子にするかで揉めるくらいに。

 

 アマンドの方は全てにおいて優秀でした。学問も運動も技能も行儀作法も。護衛長と争って私の見習いに致しました。無理強いではありませんよ、ええ。本人の希望です、もちろん。

 

 最初の子供達の教育がそろそろ終了が近くなった時、主人の様子が少し変になりました。アマンドの姿を遠くから眺めながら、何か思い悩むようになりました。

 

「どうかなさいましたか?」

 

「子供達の希望は聞きましたか?」

 

「はい」

 

 初年は五人の子供が屋敷に来ました。そのうちトムという少年は堅苦しい貴族の生活に馴染めず、春には屋敷を出て行き、近くの農園で働く事になりました。

 

 ベンはやはり春になるのを待って、屋敷から金の時計を盗んで逃げました。名のある職人の品でしたので、売ろうとしてすぐに足がつき、教護院へ送られました。牢獄へ入れなかったのは反省してやり直せという主人の恩情です。

 

 ベスという少女は明るく元気な良い子でしたが、少々お調子者でそそっかしいところがあったので、公爵家の使用人としては無理がありました。

 本人もそれは分かっていたらしく、町の食堂で働く事を希望しました。食べ物を扱う店なら食べるのに困らないだろう、というのです。計算も、得意ですし、料理の手伝いもできます。第一人当たりがいいので商売に向いていました。自分でちゃんと自分の道を見つけたのですから立派なものです。

 

 そして当然のようにカタリーとアマンドはローゼス公爵家の使用人として合格し、二人ともこちらで働く事を希望していました。

 しかし主人はアマンドをどう扱うかに悩んでいました。

 

 六年前に彼を連れてきた時は復讐をするためなのかと思いました。彼をひと目見ただけで、彼の父の存在が私の主人の人生を狂わせた張本人だという事はわかりましたから。

 しかし彼女は悲しげに弱々しく微笑んで否定しました。

 

「子供には罪はない。親への恨みをその子供に向けるような情けない人間にだけはなりたくないわ。

 もし復讐するならその本人にだけ刃を向けるつもりよ。

 あの子は両親に見捨てられたのよ。私と同じ。しかも、彼を放っておいたらどうなると思う? 娼館に売られるか、金持ちのおもちゃになるか、あるいはあの髪と瞳の意味に気付いた人間に見つかって、政争の具として利用されるかだわ。

 あの子の存在を知ってしまった以上、見捨てては置けなかったの。だって、仮にも弟なのよ?」

 

 そうです。アマンドは主シェリーメイ様の実のお父様トーマス=エドワード男爵と酒場女との間に生まれたとされる子供でした。もっともそれは噓っぱちでしたが。

 母親は赤ん坊を産むと、その子の容姿に驚き、これでは男爵から訴えられて牢獄行きだと、なんと、よりにもよって男爵家の前に赤子を捨てて何処かへ逃げてしまったのです。

 

 酒場女のせいで腹を刺されて療養中の、しかも妻子に逃げられた男爵の元に捨てるなんて、一体どういうつもりだったのでしょう。自分の代わりに殺してくれという事だったのでしょうか。

 

 そしてその赤ん坊を見て男爵様は理解されたのです。今回の件が全て仕組まれた罠だったという事を。

 

読んで下さってありがとうございます。

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