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2 女主人(シェリーメイ)視点

主人公の視点で描きます。

一章目ではわかりにくかったも本筋に入ります。

 私の名前はシェリーメイ=ローゼス。公爵家の女当主です。

 今から四年程前、私が二十歳の時に当主かつ養父であった叔父が旅先で流行り病に罹って亡くなったので、その跡を継ぎました。

 

 しかし、本来私は当主を継げるような人間ではありませんでした。

 

 私の母マリエッタは元ローゼス公爵家の初めての子供でした。

 生まれながらの輝くような美貌と抜群の体型を持ち、その上優れた頭脳を持っていたので、社交界一の令嬢だとたいそうな評判で、王室からもそのうち声がかかるだろうと言われていたそうです。

 しかし、そんな令嬢が、なんと一代限りの男爵だった男と恋に落ちてしまったのです。

 恋は盲目といいますが、恋愛脳になると、優秀な頭も機能しなくなるようです。公爵令嬢と成り上がりの男爵。二人の結婚など許される訳がありません。しかし、マリエッタは誰の言う事にも耳を貸さず、トーマス=エドワードに夢中になってしまったのです。

 

 困ったローゼス公爵は勝手にリリースリー公爵家の長男アランティスとの婚約を決めてしまいました。

 アランティスは国一番の色男、モテ男と評判でしたが、何故か母マリエッタだけが靡かなかったようです。故に母が男爵の男などに心を奪われた事は、彼のプライドを酷く傷つけたようで、母と結婚したら、身と心を痛めつけた後で捨ててやると周囲に漏らしていたそうです。

 

 結局母は父と共に駆け落ちしたのですが、例え両親が結婚しようが別れようが、蛇男と結婚してようが、どのみち、あの男に目をつけられた時点で、母は幸せにはなれなかったのでしょう。

 

 ああいうくだらないプライドだけ高いような人間に恨まれたらどう対処すればよかったのでしょうか。

 蛇のようにしつこく、相手が抵抗出来なくなってもなお攻撃し続ける執念を持つ、おぞましく、恐ろしい相手に対して・・・

 

 母が結婚前におべっかでも使えば良かったのですかね? もしそれで勘違いをされて結婚を申し込まれたとしても、母には王族との縁談もあったと聞きますから、そちらを受ければ、さすがに諦めたのでしょうか?

 

 まあ、たらればの話をしても仕方がありませんが、アランティス=リリースリーに目を付けられ、執拗に追いかけられ、貶められたせいで、両親は破滅し、私までもが茨の道を進む人生となったのです。

 

 私は蛇のような男に一矢を報いる力も気力もなく、ただこの世から消えようと思いました。そうすれば早く楽になれると。

 

 しかし、人は人から傷つけられますが、その深い傷を癒してくれるのもまた人でした。

 蘇った私は以前の私ではありませんでした。一度全てを無くした人間に怖いものはありません。そう、蛇のような男の事に怯えたりはもうしません。

 

 自ら進んで復讐してやろうとは思いませんが、やられたらやり返すだけの準備だけしておこうと思いました。私の周りの人達を守るためにも。

 そして、それがそろそろ整ってきたのです。六年をかけてようやく……

 

 

 私を救って下さったメアリーナ様はおっしゃっていました。『婚約破棄も三度すれば、もうそれ以上結婚話はこないよ。もし次に来るとしたら真実の愛さ』と。

 あの時、いくら尊敬する師匠の言葉でも、『真実の愛』という言葉の方は信じる訳にはいきませんでしたから、ただ笑みを浮かべておりました。

 

『一番好き』『一生』『君だけ』この三つのフレーズは、私にとっては禁句です。そして、その次に嫌いなのはこの『真実の愛』という言葉です。

 私の両親はこの『真実の愛』というわけのわからないものを見つけて、駆け落ちまでして結ばれました。

 

 しかし、その結果はどうなったでしょう。

 七回八年目の結婚記念日に突然臨月間近の女性が家に乗り込んできて、家はまさしく修羅場となりました。

 あの頭がよく、いつも穏やかで優しかった母が鬼の様な形相になり、浮気女ではなく父を、その場にあったケーキ用のナイフで刺し、女が物凄い悲鳴をあげました。

 

 しかし女は悲鳴をあげ、ただブルブルと震えているだけ、母は喚きながらただ父を睨みつけるだけでしたので、このままでは父が死んでしまうと思った私は、慌てて隣家へ駆け込みました。

 父にとってこれが運が良かったのかどうかはわかりませんが、隣家の主は医師でした。お医者様の救急処置のおかげで父は一命を取りとめました。

 

 錯乱した母と浮気女は町の自警団の人達に何処かへ連行されて行き、私は屋敷に怪我をした父と二人取り残されました。

 ただお医者様が看護の女性を残して下さったので、父の心配はしないですみました。

 看護の方は私の事を気にかけながらも、私にどう対処すればいいのかわからず戸惑っていらっしゃいましたので、部屋のすみで蹲ってじっとしておりました。

 

 もし今の私が当時の彼女だったとしても、とても声をかけられなかったでしょう。ただ夜が明けて、早く通いの侍女エルザさんが来てくれる事を祈る事しか出来なかったでしょう。

 

 エルザさんはいつもより随分早い時間にやってきてくれました。早朝に自警団の人から事情を聞いたのだそうです。

 エルザさんは私を見ると駆け寄って来て、思い切り抱きしめてくれました。その時、私は初めて声を上げて泣きました。

 

 結局、錯乱した母が落ち着く事はなく、手を焼いた自警団の依頼を受けた領主様が、母の出自を調べてローゼス公爵家へ連絡をしました。

 

 事が公になる事を恐れた公爵家はすぐに執事のフォルトさんをこちらによこしました。フォルトさんは領主と自警団と隣家の医師に礼だといって、かなりの金額を渡し、有無も言わさず母と私とエリザさんを公爵家の領地へと連れて行きました。

 

 父には母との離縁状を無理やり書かせたそうです。父は被害者ではありましたが原因を作ったのはそもそも父であったために、それを断れませんでした。しかも正常でなくなった妻とまだ幼い娘を未だ療養中の自分が世話をする事は出来ず、致し方なかった事でしょう。

 

 父はあの宿屋で働く女とは、たった一回酔った時に過ちを犯しただけで、母と娘である私を本当に愛してくれていました。

 いいえ、後で分かった事ですが、そもそも父は不貞も過ちも冒してはおりませんでした。そう、あの蛇男にはめられたのです。

 

 そしてエルザさんは無理やり連行された訳ではありません。ローゼス公爵家の執事が平身低頭依頼して同行を願ったのです。正常ではなくなった女とその娘の、世話をするのが容易ではないという事は想像に難くありません。ですので、私達に慣れている人に側に付いていてもらいたかったのでしょう。

 

 エルザさんは早くに夫に先立たれ、女手一つで二人の子供を育てあげた苦労人で、心優しく逞しい女性でした。多分、私を哀れと思ってついて来て下さったのでしょう。

 正直彼女がいなければ、私はあの過酷な状況を耐え抜く事はできなかったと思います。心から感謝をしています。今では本当の家族のような関係です。

 

 これから始まるだろう復讐劇に、彼女と後に引き取ってくれた義母は巻き込みたくはないので、内緒で事を進めようと思っています。

 彼女達の知らないうちに終わらせて、蛇男にも略奪女にも怯える事なく、早く穏やかに暮せるようになりたいと願っています。

読んで下さってありがとうございます。

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