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18 女主人(シェリーメイ)視点2

 人間一度死ぬような思いをしたら、さすがに吹っ切れるものですね。

 

 最初の結婚話がなくなり、その後、元婚約者に襲われた事で、私は事実無根の嘘やデマで中傷されるようになりました。世間は私をまるで悪役令嬢のように扱いました。

 私は精魂尽き果てて、もう早く楽になりたいと思いました。両親の、特に父の元へ行きたいと思いました。そして、とうとうあの日、私は屋敷の裏に流れる川へと身を投じたのです。両親のように・・・

 

 しかしどうした事か、私はいつものように自分の部屋で、自分のベッドの中で目を覚ましました。そしてベッドの端では、私の手を握ったままエルザさんが眠っていました。

 

 私はその手の温かさに涙が溢れてきました。そうだわ。私の側にはいつもエルザさんがいてくれた。だから私はこれまで生きてこれたのに、何故その事に気付かなかったのかと。

 

 私が声を出さずに泣いていると、突然ノックもなしに部屋のドアが開きました。思わずそちらに顔を向けると、四十代半ばくらいの見知らぬシスターが立っていて、ずかずかと中に入ってきました。

 

「気が付いたのか。良かった」

 

「あのう、貴女様は一体・・・」

 

「私はシスター=メアリーナ。ゲルトーにある教会の者だ。君の父親からの依頼で君に会いに来たのだが、目の前で君が川に飛び込んだので、酷く驚かされたよ」

 

「シスターが私を助けて下さったのですか?」

 

「正確に言えば私ではなく、私の付き人の二人が助けたのだがね」

 

「あの、ゲルトーとはここから随分と遠いですよね。馬車で一日がかりの場所にある教会のシスター様が、養父(ちち)とはどういったお知り合いなのですか?」

 

 私が疑問に思ってこう尋ねました。するとメアリーナ様は驚きの発言をなさった。なんと父親とは養父シャルドネの事ではなく、実父の事だったのです。父トーマスは名前を変えて生きていたのです。

 

 

 十年前のあの呪いの日の真実。

 そしてその一年後に起きた、両親の真相・・・

 

 エルザさんと共に私は、メアリーナ様から、想像すら出来ないような恐ろしい話を聞きました。

 私は元々両親の事を恨んではいなかったし、自分の不幸を嘆いてもいませんでした。ただそれが自分の運命なのだと諦めていました。今思うと子供らしくない、冷めた子供だと思います。

 それは多分、父が母にナイフで刺されたのを目撃した瞬間に、防衛反応で私の幼い心が閉じてしまっていたからでしょう。

 

 ですから、話を全て聞いた時も、激しい衝撃は受けましたが、我が家を不幸のどん底に落とした元凶リリースリー公爵に対する恨み憎しみは、最初のうちはほとんど湧いてはきませんでした。

 

 ただ、父のこれまでの苦しみ、悲しみを知って、それが悲しくて、辛くて、涙が止まりませんでした。父はこれまでずっと孤独に耐えながら、ただ私の事を思って暮らしていたのです。

 

 そして、メアリーナ様の次の言葉で私の気持ちは急激に変化しました。

 

「その気がないなら無理に復讐など考えなくてもいいよ。ただ、蛇男はこれからも君達に関わってくる恐れがある。もし君に守りたいものがあるのなら、それに備えなければいけないよ」

 

 これ以上、父に辛い思いをさせてはならない。

 故郷を離れ、ずっと私の側にいて守ってくれているエルザさんを危険な目にあわせてはならない。

 散々迷惑をかけ通しの義父母にこれ以上迷惑をかけてはいけない。

 

 蛇男に対抗出来るくらい強くなりたい。絶対に愛する人達を守りたい。私は初めて心から強くそう思いました。

 だから自分を導いて欲しいと、私はメアリーナ様に訴えました。すると、メアリーナ様はすぐ様その要請を受け入れてくださいました。

 

「私はね、自分で言うのも憚られるのだが、人より魔力が高いんだ。

 だがね、それに伴う人格がまぁなかったので、今まで人に魔術を教えた事がなかった。だが、君はまだ若いが、大分精神年齢が高いようだから、私とは違い、誤った使い方はしないだろう。

 君は私にとって最初で最後の弟子になるだろう。だから、私の全てを君に伝えよう」

 

 そうです。私自身気づいていなかったのですが、私にはそれ程大きくはありませんでしたが、なんと魔力が備わっていたのです。

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 メアリーナ様の教会は北の国境近くのゲルトーという町にありました。私が七歳まで住んでいた町の隣の町で、当時私が住んでいた北の領地シュナイエルの屋敷からは、馬車で丸一日かかる所に師匠は住んでいらっしゃいました。

 

 教会と隣接する孤児院でシスターをされているメアリーナ様は、大変お忙しい方なので、わざわざこちらに来て頂く訳にはいきません。

 かといって私も、そう頻繁に何日も屋敷を留守にする訳にはいきませんでした。何故なら、その当時私は、既に北の領地の経営に携わっていたからです。

 

 

 私が十歳の時に祖父母が相次いで亡くなり、叔父夫婦(義両親)がローゼン公爵家を継ぎました。その際叔父達は親族の反対を押し切って、私を後継者に決定して、役所にその届け出をしてくださいました。

 私は、親族に弱みを見せぬように、後継者の勉学に励みました。その結果、十七歳の頃には、既に北の領地の経営を任されていたのです。

 

 私はそれまで養父母に我儘を言った事はありませんでした。それは私が幼少期から自分の立場を弁えていたからです。

 しかし、私が抱いたメアリーナ様の弟子になりたいという強い気持ちは、どうしても抑える事ができませんでした。

 私は変わりたかったのです。ただ運命に弄ばれるだけの哀れな人形のままでは、もういたくなかったのです。今まで私を守り愛してくれた人達を、今度は自分の力で守りたかったのです。

 

 私は王都にいる養父シャルドネへ、決死の覚悟で手紙を出しました。しかし、返事はすぐには返ってはきませんでした。

 やはり勝手は許してはもらえなかったのかと、私は酷く落ち込みました。

 ところが二週間後に、承諾するという養父からの手紙が届きました。そしてそれを届けてくれたのは、なんとローゼン公爵家の執事長のフォルト=グロースベルク卿でした。

 

「こちらの領地の経営に関しては、私が出来るだけお手伝いをさせて頂きますよ。ですから、お嬢様はご自分のされたい事を思う存分なさって下さい。

 お嬢様が初めて願い事をしてくれたと、旦那様はそれはそれはお喜びでしたよ。ですから、本当にお仕事の事は気になさらないで下さいね。もちろん、こまめにきちんとご報告はさせて頂きますからね」

 

 私は正直、喜んでいる叔父というか養父の顔がどうしても想像出来ませんでした。叔父はいつも困ったような顔で、少しびくついた表情しか私に見せませんでしたから。

 なんでも、初めて顔を合わせた頃、私は叔父をかなり怖がっていて、決して近づこうとしなかったらしいのです。私自身は覚えていはいないのですが、どうやらその名残りのようです。

 

 それに、フォルトさんも私の前ではいつも無表情を貫いていましたから、微笑みながらこう言ったフォルトさんに、正直私は驚きました。何故お二人ともそんなに嬉しいのかしらと・・・

 

 それはともかく、私は養父と執事長のフォルトさんのおかげで、月の半分を北の国境のゲルトーという町で過ごせる事になりました。しかも、あちらに居る時は、実の父であるトーマス(現ディーン=ターナー子爵)の家に住む事が出来るようになったのです。

 

 十年ぶりで父と暮らせるようになったのです。しかも当然エルザさんも一緒です。

 もちろん、親子と名乗る訳にはいかなかったので、世間的には私はターナー子爵の姪のローラという、行儀見習いの娘という設定でした。

 父とは顔が瓜二つだったので、お陰様で人様から疑われる事もなく、堂々と一緒に外出する事も出来ました。魔法の修行はとても厳しいものでしたが、私は本当に幸せでした。

 

 しかし、その幸せは一年しか続きませんでした。何故なら、ゲルトーの教会が元王妃の手の者によって火を放たれ、全焼して跡形も無くなってしまったからです。

読んで下さっ手ありがとうございます。

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