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17 元王妃(アンナ)視点

投稿が遅くなってすみません。

今回の章は難しく、話をなかなか先にすすめませんでした。


つい、その間短編を書いて投稿したら、そのおかげか、こちらの連載も少し読んで頂ける方が増えたようで嬉しいです。

 娘のエリザベートに子供が生まれた時、私は心底ホッとしました。もちろん初孫が生まれたのですから、当然嬉しいに決まってはいますが、それだけではありませんでした。

 

 私はずっと娘の夫であるリリースリー公爵から無言の脅迫を受けてきたのです。しかし、孫が出来た事でそれも帳消しです。私の罪を暴けば、私の娘で自分の妻であるエリザベートだけでなく、自分の娘にまで、害が及ぶのですから。

 

 その上、孫娘は父親に瓜二つ。瞳の色こそアイスブルーでしたが、王家の血筋を表す銀髪の中に金髪が混じっているメッシュヘアーでした。リリースリー公爵がシャルロッテを溺愛するであろう事は容易に想像出来ました。案の定そうなりましたが。

 

 娘は私に似てただの金髪でしたが、その娘が生んだ子が王家の印を持っていた事で、私の罪は帳消しになったような気がしたのです。

 

 そう。娘のエリザベートは私の夫であった国王の子ではありませんでした。

 夫は決して私を蔑ろにしていた訳ではありませんでした。それに結婚して五年経っても私に子供ができなかったのですから、王家のしきたりでは第二夫人を持つ事は当然の事だったのです。王家の血を繋げなければならないのだから。

 

 とは言え、夫と幼馴染みの第二夫人との間にすぐに子供が出来た時は、私は計り知れないほどのショックを受けました。

 

ー最初から彼女と結婚していれば、王太子殿下は苦労する事はなかったのにー

 

ー侯爵令嬢と王太子殿下は元々婚約予定だったのに、隣国が横槍を入れて、無理矢理にあんな王女を押し付けてきたせいで、要らぬ苦労をさせられて、お二人は本当にお気の毒だー

 

ーあの王女は愛するお二人の邪魔をした悪役よねー

 

 悪意のある言葉がこれみよがしに聞こえてきました。両国の平和のために遠い見知らぬ国へ、わずか十三歳で嫁いできたというのに、何故こんな事を言われなくてはいけないの? 

 そもそも慣習法で決まっているとはいえ、まだ十八の私に子供が出来ないからって、そんなに問題があるの? これからいくらでも産めるのに。

 

 幼い頃から厳しい淑女教育、王妃教育を受けてきた私は、夫や第二夫人、側近の前でも顔色一つ変えず、余裕綽々な振りをしていたけれど、平気な訳がなかったのです。私が心を許せるのは、私が幼い頃から側に付いてくれていた、侍女のノラだけでした。それでも、そのノラにさえ、私は泣き言は言えなかった。

 

 そんなある日、私は信心深いノラから聖堂の礼拝に誘われました。

 私は毎週王太子や第二夫人と共に、この国と民の安寧と幸せを願って祈りを捧げているが、個人的にも通って、心の安らぎを得ましょうと。

 

 正直な事を言うと、この国の聖堂にいる宗教者達を私は信用していなかった。俗にまみれ、権力を欲しがる思惑が垣間見えて、あの者達に心の内を晒すなど、到底出来ないと思っていました。ノラならそれくらいわかりそうなものなのに、と思っていたら、やはり彼女には考えがあったようです。

 

 城の中では味方のいない王太子妃アンナ、つまり私の陣営に、聖堂の者達を引き入れようというのです。

 

 第二夫人の実家が通う教会と城内にある聖堂では、同じ宗教でも宗派が違っていました。それ故、聖堂の関係者は第二夫人の事を内心快く思ってはいなかったのです。それに乗じようというのでした。

 

 私は聖堂の聖職達に決して心の内を晒さず、別の人格の王太子妃像を創り上げ、それを演じ続けました。

 

 この国の繁栄と平和、国民の幸せを祈願する為に、毎日のように礼拝に訪れる、信心深い王太子妃・・・

 

 両陛下と王太子殿下、第二夫人と生まれたばかりの姫の健康を祈り続ける健気な王太子妃・・・

 

 いつも優しい微笑みを浮かべてはいたが、時折見せる悲しげな儚い表情が、私の今の辛い立場を改めて浮き彫りにし、皆の同情をかったようです。

 正直なところ、人から同情されるなど王太子妃の立場からすると、かなり屈辱的で本来してはならない事です。それを重々承知しながらも、一人でもこちら側の味方を増やしていかなければなりませんでした。

 

 そうこうしているうちに、私は聖職者達に、信心深く健気な王太子妃として認知されると、徐々に城内にも容認されていったのです。

 そしてそんなある日、私はいつもと違う時間にたまたま聖堂を訪れた時、あるシスター二人の会話を偶然に聞いてしまいました。

 

 なんとまだ十五歳の聖女が、コンシネ魔法という名の、人の血筋がわかる禁術魔法を生み出したというのです。

 その聖女というのは、私とは三歳しか年が違わないというのに、とても幼い感じがする少女でした。まるで少年のような爽やかな顔立ちにスリムできびきびした動作で、まるで淑女教育がなされていませんでした。

 

 不思議に思ってそれを年配のシスターに尋ねると、彼女はこう言いました。

 

「彼女は聖女というより、稀代の天才魔術使いです。しかし、人前で奇跡を見せるより、魔術の研究をする方が遥かに役に立ちます。故に、マナーなどの淑女教育などに時間をかけるのは無駄というものです」

 

 私はこの聖堂のあり方に疑問を抱きました。しかし、だからこそ利用出来るとも思いました。

 そして、『血筋がわかる魔術』と聞いた時、突然私の頭の中に、悪魔のような恐ろしい計画が浮かんだのです。聖堂の中だというのに。きっと、あの聖堂の中には邪悪なものが渦巻いていたのでしょう。私はそれに当てられたのかもしれません。

 


 私が立てた計画は本当に恐ろしいものでした。何故あんな恐ろしい事を考えて実行できたのか、今でもわかりません。

 若気の過ちではすみません。ただ罪の深さに気付いていたのは確かです。何故なら、その計画には侍女のノアを加えなかったのですから。一番信頼している大切な彼女だけには、悪魔に魂を売った私を絶対に知られたくなかった・・・

 

 私は第二夫人に邪な思いを抱いている男を知っていました。その男の名前はバージル=ラウファー。

 第二夫人の近衛騎士だった、伯爵家の二男。思い込みが激しく執念深そうな男だと睨んでいたが、その通りでした。それとなく彼とすれ違いざまに何度も耳元で、夫人が貴方に気があるみたいですわよと囁きました。

 

 そして、ある日突然私に好機が訪れました。しかしそれは今思うと甚だ不謹慎な事であり、王太子妃としては国勢を顧みない恥ずべき行為でした。

 

 西の国境付近では、このところ長雨が続いていたので王城でも心配していたのですが、その心配が現実のものとなりました。

 山崩れが起こり、隣国へ続く重要な街道や河川が土砂に埋まってしまったのです。そしてそれだけでなく、それによって洪水が引き起こされ、いくつかの村がそのまま流されてしまいました。都からも多くの騎士やら民衆で組織された自警団が、すぐさま国境へと向いました。しかし大規模な災害の為に、修復作業にはかなり時間を要しました。

 

 一月(ひとつき)ほど経って、人々の疲労が目立つようになり、人々を鼓舞する為に、王家も現地を訪問する事となったのです。そして、高齢の陛下に代わって、王太子である夫がその地に向かう事になりました。

 

 片道四日。二、三日滞在したとして、十日前後は王宮を留守にする事になるだろう。こんな機会は滅多にないわ。私はラウファーに囁きました。

 

「この機を逃したら、貴方が思い人と結ばれるチャンスは永久に訪れないですよ」

 

 

 そして王太子殿下の第二夫人の近衛騎士は、主が帰還する三日前、自分の思いを遂げたのでした。そしてその後騎士の職を辞して、私の母国へと出奔したのです。

 

 第二夫人の懐妊がわかったのはその後まもなくしてです。そしてその半年後私も初めて懐妊しました。

 

 生まれてきたのはどちらも王子でした。あれ程王族、国民から待望されていたというのに、皆が困惑しました。

 というのも、王位継承権にはっきりした決まりがありませんでした。上の子に大きな問題がなければ、普通なら生まれた順で順番が決まるのです。

 しかし、二人の王子は半年しか違わない上に、第二王子は正妃の生んだ子であり、大国である私の父王にとっては孫ですから、その子をぞんざいに扱えば、外交的に不安要素になりかねません。

 

 私は両陛下と王太子、それに重鎮達の前でこう言いました。この国の安寧のために嫁いできた身としては、私が王子を生んだ事で、未来に禍根を残すようになっては、あまりにも辛いと。

 ですから、早々に第一王子を王太子にして頂きたいと。第二王子は王太子殿下の家臣になるべく育て、教育していきたいと思いますので。と。

 

 それを聞いた者達がどれほどホッとし、歓喜したかは想像がつく事でしょう? この事で私は、この国の国母としての地位を、国の内外で確固たるものにしたのです。

 

 

 そして・・・私は王子を一人生んだ事で、最低限の義務を果たしたと、長年張りつめていたものが多分緩んでしまったのでしょう。私は近衛騎士見習いの年下の若者に恋をしてしまいました。

 

 初恋も知らずに嫁いで来た私が初めて人を好きになったのです。ノラに注意をされればされるほど、私の思いは燃え上がり、彼以外の事はどうでもよくなりました。

 ある日の事、私はとうとう彼を密かに私室に招き入れ、関係を持ちました。彼は私が初めてだったようで、それが私をさらに彼にのめり込ませました。

 

 しかし、数カ月後、彼は見習い期間が終了すると、第一王子付を希望し、私から離れようとしました。それは私が懐妊したからです。多分、自分の行為が恐ろしくなったのでしょう。

 そもそも彼は私に逆らえずに仕方なく相手をさせられていたのです。でも、私は彼を手放すつもりはありませんでした。

 

 私は彼の耳元で囁きました。

 

「お腹の子は貴方の子よ」

 

 と。あの時の彼の驚愕した顔は忘れられません。

 それはともかく、彼はまだ十六であったにも関わらず、自分の生涯を不義で生まれてくる我が子の為に使おうと決心してしまったようです。そして、二度と私と関係を持とうとはしませんでした。

 

 正直あの時点では、夫の子なのか彼の子なのかはわかりませんでした。そして生まれてきた後も。娘のエリザベートは私似だったので。ただ、瞳の色がアイスブルーでディート=ヘッセマンと同じだったので、もしやとは思っていました。確定したのは、コンシネ魔法で第一王子が不義の子だとわかったあの騒ぎの後です。

 

 年に一度のあの王家主催のサプライズパーティーで、二人の王子と第一王女、そして高位貴族の血統証明がなされましたが、まだ赤ん坊であったエリザベートは相手にされませんでした。

 その後すぐに聖女メアリーナはこのコンシネ魔法に関する全ての物を処分して出奔してしまったので、二度と血統の証明はできませんでした。

 ただ、私はコンシネ魔法のかけられた紙を一枚だけ隠し持っていたのです。ですからこっそりと娘の血統を調べてみました。

 人間というものは怖い、見たくない、知りたくないものほど、知らずにはいられない生き物のようです。

 

 娘のエリザベートは十五歳の時、倍も年上で、しかも再婚のアランティス=リリースリー公爵の元へ嫁ぎました。貴族であればこれくらいの年の差は珍しくありませんし、しかも身分も申し分なかったので、世間から二人が怪しまれる事はありませんでした。

 

 しかし、私は大事な娘をリリースリー公爵の元へなど、本当は嫁がせたくはなかったのです。同類だからでしょうか、彼が腹黒い邪悪な男だとわかっていたので。

 それでも拒否出来なかったのは、リリースリー公爵が第一王子の実の父親であるラウファー卿と親しくしていて、彼を唆したのが私だと知っていたからです。証拠など何もありませんが、ずる賢いあの男が何をしかけてくるか、そら恐ろしくて拒否出来ませんでした。

 

 ところが孫のシャルロッテが生まれた事で立場は逆転したのです。私はリリースリーの最大の弱みを握ったのです。いざと言う時までは口にはしませんが。

 その弱みとは、彼の血統主義の事です。彼の誇りを支えているのは、己の血は高位貴族の血だけが流れているということであり、これからも未来永劫そうだと思っているくだらない男です。

 

 そのくだらない主義のために、先代王の命で結婚した元伯爵令嬢とは子供をつくらず、エリザベートが適齢期を迎えた途端、子供が出来なかったという理由で妻を捨てた男なのです。

 

 しかし、あの男の大事な跡取り娘には、平民であったディートの母親の血が流れているのよ。

 そして確かに王家の血は流れているけれど、それはこの国ではなく隣国の王家の血だけなのよ。

 これを告げたら、あの男はどんな顔をするのか、ずっと楽しみでしかたがなかった私です。

 そして、その時はついにやって来ました。シャルロッテが婚約を破棄して、伯爵家の別の令息と結婚したいと言ってきた時、私は予感のようなものを感じ、少し安堵したのです。ああ、これで自分もようやく公の場で謝罪できるのだと。

 

読んで下さってありがとうございます。

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