表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/25

16 シスター(アリス)視点

投稿が遅くなりました。


アリス視点が難しく、なかなか捗りませんでした。



 私はアリス。王都で一番古いとされる、とある教会のシスター長です。

 生まれてまもなくこの教会の前で捨てられていました。父親は隣国の辺境伯で、奥方の侍女だった平民の母と無理矢理に関係を持ち、妊娠させた後はわずかな金子(きんす)を手切れ金として渡して、屋敷から追い出したそうです。

 

 しかし、父親のいない子を生み育てる事など、いくら多少裕福な家であろうと世間体があって簡単な事ではありません。母親は部屋に閉じこもり、人知れず私を生み、わざわざ隣国のこの国に連れてきて、この教会の前に私を捨てたのです。

 

 赤子の頃に捨てられた私が何故実の親の事を知っているのかというと、私が十歳の時に引き取りたいと、生みの母が教会にやってきたからです。

 

 その一年前に隣国で流行った病のせいで、母親の実家の跡取り及び親類のめぼしい子供達が亡くなってしまったのだそうです。そして、隣国に捨てた子供の事を思い出したようです。

 

 どうしたいかとシスターに聞かれ、今の生活に不満はないし、将来はシスターになりたいので断って欲しいと私は言いました。私のその言葉に嘘はありませんでした。

 そこで当時のシスター長様は、迎えに来た母親にこう言ったそうです。

 

「私の記憶になかったもので調べてみましたが、貴女がこちらに預けたとおっしゃる赤子は、預かったその日から1週間後に亡くなっていますね。生まれて間もなかったですし、真冬の夜中に勝手に預けられておりましたからね」

 

 母は最初から私が死んでもかまわなかったのでしょう。シスターもそう感じた為に、わざと悪意のこもった表現をしたのだと思います。

 甘い顔を見せると、納得せずに教会に押し入って、しつこく調べようとする輩が出てくるからです。母親は打ちひしがれて去って行ったそうだが、同情する気はさらさらなかった。

 

 後で知った事だが、父親の辺境伯も同様の事態になったらしく、子を寄越せと母親の実家に要求し、死産だったと言われたらしい。

 両家とも厚顔無恥も甚だしい。どちらの家で育てられていたとしても、私はろくな人生は送れなかったでしょう。

 

 古い伝統を持ちながら、厳格さの中にも型にはまらないこの教会で育てられて、私は幸せでした。親友とも妹とも呼べるメアリーナもおりましたしね。

 

 ただこのメアリーナはかわいいけれど、ちょっと困り者でした。明るく元気で頭はいいけれど、感情の起伏が激しく、思い込みが強かったので、年がら年中小さな騒ぎを起こしていました。その上彼女は強い魔力を持っていました。

 メアリーナを放置したら大変な事になります。私は彼女を教会に閉じ込めておこうとは思ってはいませんでしたが、きちんと自分の感情と魔力をコントロールできるようにならないうちは、好き勝手に外へは出してはいけないと思っていました。

 彼女は素直過ぎて、簡単に人に騙されるような子だったからです。ですから、彼女の能力が悪人に利用されては一大事になると。

 

 そして私の心配は現実のものとなりました。

 

 メアリーナは十歳の時に聖女認定をされて王宮の聖堂へ連れて行かれてしまいました。

 

 王宮の聖堂なのだからさぞかし立派な場所だと思われるかもしれませんが、立派なのは建物だけで、中にいるのは世俗にまみれ、ただ権力とお金を欲しがる連中ばかりです。

 国や国民の安寧を願い、祈りを捧げているなんて、ただのポーズに過ぎませんでした。 

 

 私達のいた教会はたとえ、見かけが古く見栄えの良くない建物であろうと、国で一番古い由緒正しい教会だったので、それなりに王宮の聖堂とは付き合いがあったのです。ですから、内情はよくわかっていました。だから、あそこではメアリーナをきちんと教育出来ないだろう、と私は考えていました。

 

 そこで私は手紙のやり取りで、彼女の相談に乗り、かつ彼女を導いて行こうと考えました。

 検閲される事も考慮して、二人で暗号を作る事になったのですが、メアリーナはすぐに嬉々として、いくつかの暗号を生み出しました。

 改めて彼女の頭の良さを認識するとともに、彼女の才能が悪人に利用されずに済みますようにと、私は心から願いました。

 

 そして私はメアリーナとはずっと文通を続けていましたが、王宮へ行ってわずか五年で、彼女は物凄い魔術を生み出しました。それはコンシネ魔法といい、人の血筋がわかるという禁術でした。

 

 貴族社会は魑魅魍魎。悪だくみばかりしている連中が闊歩している。しかもそんな彼らの誇りを支えている唯一のものが血筋です。それがなければ、貴族と平民との違いなどありはしないのですから。

 

 貴族だろうが平民だろうが、当然優秀有能な者もいればそうでない者もいます。本来爵位の高さで優秀さが決まるわけではない。

 そんな当たり前の事が血統主義者達にはわからないらしいのです。ですからそんな連中に、彼らの血統が真実かどうなのかをはっきり証明してやったら、さぞかし胸がすく事でしょう。

 

 乱れた風紀の現在の貴族社会で、本来の親子関係が果たしてどれくらい成立しているのかを知りたいと、ついゲスの考えが浮かびそうになりました。

 しかし、それは決してしてはいけない事なのです。世の中知らなくても良い事などいくらでもあるのですから。

 親子関係は血の繋がりだけではないでしょう。そもそもたとえ血が繋がっていたとしても、自分の利益にならなければ簡単に切り捨てられる、我が子なんて、そんな程度のものなのですから。

 

 私はメアリーナに、その禁術の事を誰にも話してはいけないと書いた手紙を出しました。すぐに返事がかえってきて、わかったと言ってきましたが、それは嘘でした。

 

 大体あの子は人から褒められるのが大好きでした。そんな子が、今までなかった新しい魔術を生み出したのに、それを人に言わない筈がなかったのです。

 

 彼女の生み出した魔術の話は、先輩聖女から王太子妃の耳に入り、彼女からこう囁かれたようです。

 

「現在我が国は二つの派閥によって分断される危機に陥っています。この国の平穏の為に手を貸してくれませんか?」

 

 メアリーナは優しい子で、人の心に寄り添おうとする子でした。その上天才。しかし、その反面、人間関係においては深く考えない、人の裏を見ようとしない、思慮の浅い子だったのです。

 結局、人の心の機微に疎かった為に、簡単に人から懐柔されてしまったのです。

 

 メアリーナは王族や高位貴族が集う会議の場面で、天のお告げを受けたと嘘をつき、その場にいた高貴な人々の指先に針を刺し、コンシネで梳いた薄緑色の紙に垂らしたという。

 すると紙に落ちた血の点は、ジワジワと上下左右に伸びていって家系図を表し、人の氏名を次々と浮き上がらせた。それを目にしていた人々は恐れ慄き、やがて会議場は阿鼻叫喚を極めたという。

 

 乱れた人間関係が赤裸々となったらしいが、その中でも一番衝撃的だったのは、第二夫人が生んだ王子の父親の名が王太子ではなく、以前夫人の近衛騎士をしていた男だったという。

 この時点で、メアリーナもさすがに、自分のしでかした事の大きさに気が付いたらしい。

 

 気付くのは遅かったが、さすが教会とはいえ、市井育ち。メアリーナは大騒ぎになったその場をこっそり抜け出すと、聖堂に駆け戻り、コンシネ魔術に関するものを全て消去しました。

 ただ、後でいつか役に立つかも知れないと、何本かのコンシネ草の株とコンシネ紙を荷物に忍ばせたらしい。そして、建物の周りに植わっていたコンシネを根こそぎ処分し、わずかな私物を持って城から逃げ出して来たのです。

 

 教会に飛び込んできたメアリーナの顔を見て、私は多くを聞かずとも、かなりまずい事になっているのだと言う事を察しました。 

 バザーに出すために置いてあった男ものの服に着替えさせ、外出時の変装用のカツラをかぶせると、私の持ち金を全てメアリーナに渡しました。そして、前々から用意しておいたメモを手渡してこう言いました。

 

「このメモには手助けしてくれそうな方の名前と住所が書いてあるわ。覚えたらすぐに飲み込んで。迷惑をかけるといけないから。

 取りあえず乗り合い馬車で北の隣国へ向かって。暫くはそこでおとなしくしてるのよ。連絡は一ヶ月後、梟便を使って。着払いでいいから」

 

「アリス、ごめんなさい。わたし・・・」

 

 メアリーナは泣いていた。人の忠告を聞かず禁術の研究を続けた事を反省しているのか、それとも迷惑をかけたと思っているのかはわかりませんでした。しかしそんな事を言っている場合ではありませんでした。私はメアリーナの手を引いて裏口から外へ出ると、馬車乗り場へと急ぎました。

 そして停車場に届くと、丁度北方向へ向かう馬車が停まっていたので、私は彼女をその中に押し込みました。

 

「暫くは会えないと思うけれど、それまでは一人でがんばりなさい。それと、今後は簡単に他人に同情しないこと。この世の中、哀しい人、辛い人、困っている人ばかりなのよ。それを覚えておきなさいね」

 

 彼女は頷き、私にいつまでも手を振っていました。

 

 私が教会へ戻ったすぐ後、案の定近衛兵がメアリーナを連れ戻そうとやって来ました。来ていないと言うと、一週間ほど建物の周りを見張っていましたが、諦めたのか、そのうちにいなくなりました。別のルートで追う事にしたのでしょう。

 

 お城で何が起きたのか、メアリーナの最初の手紙が届くまで詳しい事はわかりませんでしたが、第一王子が病気療養のために、第二夫人と共に南方の王族の直轄領へ向かった、という噂が王都に流れました。それでおおよその事は察する事が出来たのでした。

 子供には何の罪もありません。せめて命だけでもご無事でありますようにと、私は天に祈りを捧げたのでした。

 

 

 私は育てて頂いた教会のシスターになり、今では初の女教会長となりました。

 

 ここの教会は甚だ不本意ながら、何故か秘密裏に、前王妃とリリースリー公爵の反対勢力のコントロールタワーのようになっています。

 王族に睨まれるのではないのか、目をつけられるのではないか、と思われるかもしれませんが、そこは上手くやっています。というのも、現国王陛下夫妻やリリースリー公爵夫人が、なんとこの教会の支持者になって下さっているからです。

 

 そもそもこの教会に最初の面倒事を持ち込んで来たのは、あのメアリーナでしたが、それが巡り巡って、多くの人を繋ぐ輪を作っていったのですから、世の中わからないものですね。

 

 私はメアリーナとは違い、真っ当な聖職者ですから、復讐なんて事に手を貸すつもりは全くありません。ただ困っている方から話を聞き、その方に援助をして下さる方を紹介しているだけです。本当ですよ。

 

読んで下さってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ