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14 侍女(エルザ)視点3

最初は十五章くらいの予定でしたが、後少し長くなりそうなので、引き続き読んで貰えたら嬉しいです!

よろしくお願いします!

 私はシャルドネ様にこう提案をしてみました。シェリーメイ様が落ち着かれるまでは、風貌を少し変えてみるのはいかがでしょうか? と。大変失礼な事とは思いながらも。

 すると、シャルドネ様はすんなりと、その私の案を受け入れてくださいました。私のアドバイス通りお嬢様と同じ薄茶色のかつらをつけ、碧眼を誤魔化す薄い色のサングラスをして下さいました。簡単な変装でしたが、それでも印象が大分変わっておりました。

 その結果、懐くまではいかなくても、シェリーメイ様はそのうちに叔父上様が側にいても怯えなくなりました。

 

 シャルドネ様は大変お忙しいというのに、二週間もの間シュナイエルの地に留まって下さりました。そしてその間、シェリーメイ様と触れ合いながら、屋敷の改革を猛スピードで断行されました。

 シャルドネ様は、それまではほとんどシュナイエルの領地には訪れなかったらしく、屋敷の者達は次期当主の事を公爵家のぼんぼんで、ただ上品な物静かな優男だと思っていたようです。しかし、その後の顛末には笑いました。彼らの惨めな顔を見られなかった事は、とても悔しいですが。

 

 確かにシャルドネ様は見目麗しい青年で、優雅な立ち居振る舞いの方でしたが、大変優秀な方で、しかも姉上と違って、しっかりと現実を理解している方でした。

 

 

 シャルドネ様はシュナイエルの使用人を庭師と御者以外、南方の領地の使用人と総取替えを決行しました。

 そして馴染みの優秀な執事や侍女長に、シュナイエルの屋敷の立て直しと、お嬢様のお世話と教育を命じました。もちろん私はそのままシェリーメイ様付専用侍女でしたが、なんと侍女長と同格の地位を与えられた事には驚きました。

 

 それからシャルドネ様は王都から奥様のセリーヌ様をお呼びになられました。セリーヌ様のご静養の名目で。

 と申しますのも、その当時、王都のローゼス公爵の敷地内の離れには、第二夫人がお輿入れされたところで、正妻のセリーヌ様は心身とも傷付いていらしたのです。

 

 次期当主ご夫妻には、結婚して五年経ってもお子様ができませんでした。セリーヌ様は毎日のように、舅と姑に攻め続けられていました。そして、そなたに子が出来ぬのなら第二夫人に産んでもらうしかないと言われ、シャルドネ様の意思は無視されて、両親から親戚筋の若いご令嬢を一方的にあてがわれてしまったらしいのです。

 その第二夫人に罪はありませんが、セリーヌ様は精神的に酷く参ってしまわれていたのです。

 

 まぁ、詳しい事までは存じてはおりませんでしたが、マリエッタ様から時折お話を伺っていましたので、ローゼス公爵がリリースリー公爵様とまではいかなくとも、いけ好かない人物だとわかっていました。しかしこの地に来るまでは、そこまで人情がない方だとは思ってもいませんでしたが。

 

 しかしながら、シャルドネ様も中身と見た目は全く違っていましたね。まあ私としては実のところ、主に持つならばあの方くらい抜け目ない方の方が、頼りがいがあっていいとは思いましたけどね。

 

 こんな言い方はえげつないかもしれませんが、人というものは自分より可哀想な人がいると、その人に同情したり庇ったりする事で、自分の不幸せ感を減らしていくようなのです。

 あの時、シャルドネ様も実はそれを狙ったのじゃないかと、私はゲスの勘ぐりをしています。今でも。


 そしてシャルドネ様の思惑通りに事は進み、案の定みんな上手くいきましたよ。

 シェリーメイ様とセリーヌ様は辛い思いを慰め合い、助け合って、すぐに仲良くなり、お二人共に自然に笑えるようになりました。

 北の領地のシュナイエルの屋敷は以前とは比べられないほど、気品と礼節が保たれた、温かみのある屋敷になりました。

 今までおざなりになっていた領地経営の見直しもされ、過去の不正が山のように炙り出されました。

 

 シャルドネ様はその不正の証拠を南の領地に滞在する両親の元へ送り届けました。するとローゼス公爵様はすぐ様、南方の領地の使用人全員に解雇を言い渡しました。

 ただし、執事と侍女長は不正をしていた為に、ただの解雇では済まず、牢獄行きでしたが。そして使用人全員に箝口令が出され、ローゼス公爵家の噂が世間に流れ出たら、それが誰の仕業か関係なく全員処罰するぞ! と脅迫しました。さすが公爵家です。

 

 そう言えば、公爵ご夫妻はシャルドネ様が使用人を総交換した事を酷く怒ったそうです。そりゃあそうでしょう。全く使えない連中でしたからね。しかし、ご子息は平然とこう答えられたそうですよ。

 

「あの執事のことを、領地や姉上達を任せられる確かな者だとおっしゃっていたのは父上でしょ? そんな素晴らしい執事が育て上げた使用人達なら、当主の住む屋敷で働いてもらうのが一番だと思ったのですがね・・・」

 

 と。当主様は何も言い返せなかったそうです。まあ、シャルドネ様にとってはささやか過ぎる意趣返しだった事でしょう。あの方は、たった一人の姪の額に残された傷痕を見るたびに、これから先後悔をし続けなければならなかったのですから。

 

 

 あの呪われた日、マリエッタ様は血まみれのシェリーメイ様を目の当たりにして、ようやく正気に返ったようです。しかし、愛する夫だけではなく、大切な自分の娘にまで傷を負わせたショックは、計りしれないものがあったと思います。

 マリエッタ様は我を忘れて家を飛び出しました。そして家の門から出た所で、彼女は夫であるトーマス様と出くわしたそうです。

 トーマス様はようやく体の傷が癒え、そして事件の真相を掴んで、マリエッタ様の誤解を解こうと思い、わざわざ遠いシュナイエルの地までやって来られたのです。なんというタイミングの悪さでしょう。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 

 マリエッタ様はそう叫ぶと涙を溢れさせながら、走りだし、トーマス様もその尋常ではない彼女を見て、慌ててその後を追いかけました。しかし運悪く、屋敷のすぐ後方には川が流れており、彼女はあっという間にそこに身を投じてしまいました。  

 正気を取り戻し、自分のしでかした罪の大きさに彼女は耐えきれなかったのでしょう。

 

 トーマス様も奥様を助けようとすぐに川に飛び込んだそうですが、二人とも下流へと流されて、あっという間に姿が見えなくなってしまったそうです。

 奥様の後を追わせたメイドからその顛末を聞いた時、そのあまりに酷い結末に私は天を恨みました。

 お嬢様はわずか八歳でご両親を共に亡くされてしまったのです。しかも、ご自身も、身も心も傷だらけになって・・・

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 しかし、結論を先に述べさせてもらえば、トーマス様はお名前を変えて、今も元気にしておられます。ディーン=ターナー子爵といえば、我が国では知らない者がいないくらい有名な商会ギルドの会長です。

 あの呪われた日、彼は流されている所を見かけた方々によって無事に救助されていました。そしてすぐにマリエッタ様を捜索されたそうですが、一月以上続けてもとうとう見つけられなかったそうです。

 

 トーマス改めディーン様は陰ながらシェリーメイ様をずっと見守っていたそうですが、最初の婚約破棄の話を聞いて大変心配になったそうです。そしていてもたってもいられなくなり、懇意になさっていた聖女メアリーナ様に、娘の様子を見てきて欲しいと依頼されたのでした。父親の勘!というものだったのでしょうか。

 

 メアリーナ様はシュナイエルの地を訪れ、ローゼス公爵家の屋敷に向かう途中で、女性が川に飛び込むところに遭遇されました。

 聖女様の護衛二人がすぐに川に飛び込んで、その女性を引き上げてみると、その救助した少女こそがシェリーメイ様だったのです。

 

 シェリーメイ様は最初の婚約者であるカール=ベイクスの事など好きでも何でもありませんでした。いや、嫌っていました。ですから婚約が解消された事はむしろ喜ばしい事でした。

 しかし、その後、元婚約者に襲われたり、元婚約者が没落した事で、事実無根の嘘やデマで中傷されるようになり、シェリーメイ様はまるで悪役令嬢のように扱われました。

 どんなに否定しようと、何を訴えても、誰も自分を信じてくれない。穿った目で自分を見る。あの呪われた日からずっと。今更という気もしないわけでもなかったが、それでもあの時は、もう疲れ果てて、何もかも終わりにしてしまいたかったそうです。

 

 それに、これ以上義両親に迷惑をかけるのは嫌だと思われたそうです。祖父母や親戚連中に猛反対をされたにも関わらず、叔父夫妻はシェリーメイ様を養子にして、跡継ぎになされました。しかしカールとの婚約破棄騒動が起きた事で、また彼らが騒ぎだしたのです。

 親戚にはシェリーメイ様がマリエッタ様の娘だという事は秘密にしていました。それは、あの蛇男リリースリー公爵から守る為です。もしかしたら彼女の存在は知っているかもしれませんが、公表しない限り、表立って攻撃してこないと踏んだからです。何かをしたらかえって藪蛇になると考えるに違いないと。

 

 自分がいなくなれば、親類の中から誰か後継者を選べばいいのだ。そうすれば全て丸くおさまるだろうとシェリーメイ様は思われたようです。そして

 

『お父様とお母様のお側に行きたい。もう一度お父様にお会いしたい』

 

 彼女は両親の元へ行きたかった。それしか考えられなくなった。だから両親が亡くなった川へと身を投じたのです。

 

 しかし、お父様の愛がシェリーメイ様の命を救いました。それはシェリーメイ様が嫌う、安っぽい禁句とは違う、深い深い娘への思いです。遠く離れていても、彼は娘の事を忘れた事は一日もなかったそうです。

 

読んで下さってありがとうございます!

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