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童話

逆さ虹の森~怖がりの願い~

作者: CLOWN

なんとか期間内に完成しました。

 昔々、ある森に立派な虹がかかりました。

 その虹は逆さまで、珍しい虹がかかったその森は、

 いつしか「逆さ虹の森」と呼ばれるようになりました。


 逆さ虹の森には色々な動物たちが暮らしています。

 これは怖がりのクマとイタズラ好きのリスのお話です。


 ここは、根っこ広場。

 地面にはたくさんの根っこが飛び出しており、

 生い茂る木々が日の光を遮りっている。

 嘘をついたら根っこに捕まえられるという広場。

 そんな広場を泣き出しそうな顔でクマがのそのそと歩いている。


「リスくん、来たよ。どこにいるの」


 キョロキョロと顔を動かしながら弱々しい声でリスに呼びかける。

 何度目かの問いかけにも相変わらず答えはなく、震える足で歩いている。


「根っこ広場に来いってリスくんが呼んだのになんでいないの」


 震える声でクマは呟いた。


「まさか、リスくんは嘘をついて根っこに捕まった、とか」


 ピタリとクマは歩みを止めた。

 顔が青くなっていき、汗が出てくるのを感じた。


「どうしよう、どうしよう、どうしよう」


 クマは流れ落ちる汗を拭いもせずに同じ言葉を繰り返す。


「わっ!」

「うわっ!」


 驚いたクマは腰を抜かし、飛び出してきたリスを見つめていた。

 リスは体をよじるようにしてクスクスと笑っている。


「リスくん、良かった。無事だったんだね」


 クマはしりもちをついたまま安心したような笑顔を浮かべた。


「クマくんは怖がりだな、こんなことで腰を抜かしちゃうなんて」

「うん、僕は怖がりなんだ。だからもう止めてほしいな」


 クマはリスに何度目かのお願いをしてみる。


「まあ考えてみるよ。立てるかい?」

「もう少し待って」


 リスがイタズラをしてクマが驚く。

 そうしたいつもの事をして、クマとリスは遊びに出かけていた。

 そんな日々が続いていたある日。

 いつもは遊びに誘いにくるリスがいつまで待ってもクマの巣穴に来ない。


「いつもだったらそろそろ来るのに。リスくん、来ないなあ」


 巣穴の出入り口から頭を出して今にも泣き出しそうなどんよりとした空を見ていた。


「どうしようかなあ、リスくんの家に行こうかなあ。でも、怖いなあ」


 あーでもない、こーでもないとクマが巣穴から頭を出して悩んでいる。

 すると通りかかったキツネがクマに声をかけます。


「あら、クマくん。あなたはお見舞いに行かないの?」

「あ、キツネさん。こんにちは。お見舞いって、だれのですか?」

「知らないの? リスくんよ、リスくん。ヒドい熱を出しているのよ」

「え! リスくんが!」


 クマは巣穴から飛び出て、リスのお家に走ります。


「リスくん! リスくん!」


 クマは体が大きくて入れないリスのお家を覗くと。

 木の葉の布団をかぶり、真っ赤な顔で荒い息をするリスの姿が見えました。


「どうして、どうしよう」


 クマはウロウロとリスのお家の前で行ったり来たりを繰り返していた。

 そこにアライグマが来ました。


「へ、リスなんていつもイタズラばかりしてメーワクだからほっといても別に良いだろう」

「ア、アライグマくん」


 暴れん坊でクマはこのアライグマを怖がっていました。

 ただ、今のアライグマの言葉は聞き逃せなかったようで。


「ねえ、アライグマくん、どういう意味?」

「だから、イタズラばかりでメーワクだからいない方がいいだろうって意味だよ」


 ザワリとクマの全身の毛が逆立ちました。


「ずっと寝ときゃいいんだよ」


 アライグマは吹き飛び、木にぶつかります。


「直して」

「なにしやがる! クマ!」

「言い直して」

「テメーはオレを怒らせてぇのかっ!」

「リスくんがずっと寝とけばいいなんて言葉を直してよ!」


 目を吊り上げてにらむアライグマをクマはにらみ返して叫ぶ。

 いつもは怖がって逃げ回るアライグマにクマはしっかりと向かい合っています。


「ハンっ! オメーだっていつもイタズラされてメーワクだろ。間違ってねぇだろうが」

「言い直して」

「オレは間違ってねぇ」

「言い直してよ」

「やってみろよ」


 アライグマは素早くクマに近づきます。

 いつも通り少し小突けば、泣いて謝ってくると思って。

 気づけば、アライグマは地面に転がっていました。


「オレが悪かった。ずっと寝ときゃいいなんて言って悪かったよ」

「わかってくれてよかったよ、アライグマくん」


 アライグマは自分の口から出てきた言葉に驚きました。

 いつも泣かしてるクマに自分が負けたことに驚きました。

 アライグマは立ち上がり、クマに背を向けます。


「ドングリ池。そこに行ければリスは治るかもな」

「アライグマくん」

「後は知らん」


 アライグマはそう言い残し、木々の影に去っていきました。


「待っててねリスくん、僕がなんとかするから」


 クマはドングリ池のことを物知りなコマドリに聞くことにしました。

 コマドリのお家に近づくと美しい歌声が響いている。


「コマドリさん」

「あら、クマくん。どうしたの?」

「聞きたいことがあるのだけど」

「あら、何かしら?」

「ドングリ池って知ってる?」

「ああ、ドングリを投げ込んでお願いをすると叶う池よね」

「え! 本当!」

「あら、違ったかしら」

「いや、その池だよ! どこにあるの!」

「オンボロ橋の向こうにあるという話だけど」


 クマはオンボロ橋を思い浮かべる。

 ボロボロで今にも落ちそうな橋。

 ブルリと背中が震えたが頭を振るう。


「行かなきゃ」

「ちょっと待って、クマくん」


 コマドリの声に駆け出そうとしたクマは止まる。


「なに、コマドリさん」

「ドングリはあるの?」

「あ、ど、どうしよう」


 クマはあたふたと慌ては始めた。


「この時期はドングリはないからね」

「どうしよう、どうしよう」

「食いしん坊のヘビくんなら持ってるかも」

「ありがとう! コマドリさん」


 クマはお礼を言ってヘビのお家を目指します。

 ヘビはむしゃむしゃとご飯を食べていました。


「ヘビくん!」

「あー、クマくん。なーにー」


 ヘビはのんびりとクマに答えます。

 

「お願いがあるんだ」

「なーにー?」

「ドングリを分けてほしいんだ」

「えー、ぼくのごはんだから、やだよー」

「えっと、それじゃあ交換ならどう?」

「うーん、それならいいよー」

「じゃあ、僕の巣にあるハチミツと交換でお願い」

「あとで、もらいにいくねー」


 ヘビはそういうとドングリをクマに渡します。


「ありがとう! ヘビくん」

「じゃーねー」


 クマはヘビに分かれを告げて駆け出します。

 するとその時、激しい光と音が鳴り響き、強い雨が降り始めた。

 いつものクマは雷に驚き、泣きながら隠れていた。

 しかし、今のクマは違いました。

 周りの状況にも気づかないように駆けていた。

 オンボロ橋が見えてきます。

 クマは止まること無く駆けていく、激しい光と音が鳴り響いた。

 気がつくとオンボロ橋もクマもその姿は消えていました。


 リスは目を覚ました。

 昨日と違い体は軽く気分が良い。


「よし! 良くなったからクマくんのところにいこう」


 木の葉の布団から抜け出し、クマのお家に向かおうとする。

 家の出入り口にはなぜかドングリが落ちていた。


「なんだろう?」


 リスは首を傾げ、ドングリを拾い上げ、とりあえずクマのお家を目指した。


「クマくん、あそぼ!」


 クマのお家の出入り口でそう呼んでもクマくんは現れません。

 中を覗いてもクマはいません。


「あれ? めずらしいなお出かけ中?」


 それからリスはクマを探します。

 親切なキツネに聞いても、暴れん坊なアライグマに聞いても、

 歌好きなコマドリに聞いても、食いしん坊なヘビに聞いても、

 クマは見つかりません。


「どこにいるのクマくん」


 リスは切り株に腰をかけ、昨日の雨で出来た水たまりを見て呟きます。

 根っこ広場もなぜか無くなっていたオンボロ橋にもクマはいませんでした。


「クマくん」


 なぜか涙が溢れていきます。

 強く握りしめた手からドングリは飛び出し水たまりに落ちていきます。

 リスは願いました。

 クマにもう一度会いたいと。


「お父さんが言ってたんだ。泣きたいときは空を見ろって。そしたら涙はいつの間にか引っ込むからって」


 リスは顔上げます。

 そこには安心したような笑顔のクマがいました。

 どちらとも無く駆け出します。


 ドングリが落ちた水たまりの波はおさまっていきます。

 鏡のような水面には、逆さまの虹が映っていました。


 ある森に立派な虹がかかりました。

 その虹は逆さまで、珍しい虹がかかったその森は、

 「逆さ虹の森」と呼ばれています。


 逆さ虹の森には色々な動物たちが暮らしています。

 これは勇敢なクマと涙の似合わないリスのお話です。


読んでいただきありがとうございました。

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